任務:彼の王の首を刎ねよ・前日譚


――エルブス号隊員:科学顧問■■■■■■が書いたものと思われると思しきメモの断片。
このメモはタダノ・ヒトナリ隊員がエルブス号元クルーゼレーニンが居るセクター:ボーティーズの宮殿の監獄で発見したものである。当隊員は既に死亡しており、死体はセクターの主が居る部屋の前で四散していたと言う。


これを読んでいると言う事は、私はもうこの世には居ないと言う事でしょう。

私達エルブス号は、シュバルツバースの中に突入しました…が、想定内の事故が起きました。悪魔がエルブス号の中に入って来たのです。抗った者達は成す術も無く殺され、私達は見知らぬ宮殿に連れていかれました…もし、他のエリアがあるとしたら、それはまだ間違いなく人として死ねた事でしょう。この地は地獄そのものなのです。

悪魔達は、この宮殿の主であるらしい存在に(その悪魔は金髪で容姿が整っていた男性が、不可思議な岩に乗っていた姿だったが、見た目で決して判断してはいけない)に私達を連れて行きました。彼は配下となれば真っ当な待遇をしてやろうと言いましたが、私達――特にゼレーニン主任はそれに断固反対をしていました…彼女なら、この状況を覆せるかもしれない。そう思っていたのが浅はかでした。怒った宮殿の主らしき悪魔は、ゼレーニン主任や私達を牢屋に連れて行きました…それは、地獄そのものなのです。

悪魔達は隊員を一人、また一人実験と称して嬲り殺していきました。ある者は心臓を抉られ、ある者は脳を解剖され、ある者は得体の知れない何かを飲まされ、死ぬか、化け物にされるか…ある者は、首を窒息死させられ…恐ろしい地獄でした。彼等は狂っているのです!自らの趣味で自分達を解剖しているのではなく、探究の為に自分達を殺しているのですよ!?…けど、悪魔達が時折呟いている「――様が求めている、これじゃない」と言うのが、気がかりでした…。

私は、隙を伺って脱獄し、予備用に持っていた爆弾でこの宮殿の主と刺し違えるつもりです。無意味だ、無駄だと言いますが、自分はせめて人として死にたいのです。ああ、神様…もし、この狂った地獄を終わらせるものが居るのだとしたら、この悪夢を終わらせてください。

人として、死ぬ事が出来るのはとても幸せなのです。


…尚、エルブス号のクルーであり、当艦の生き残りであるゼレーニン科学顧問の主任は、その恐ろしい出来事をセクター:デルファイナス到達時に語ったと言う。
……尚、当時の状況を再現したと言うファイルがあります。
……彼女の心理ケースを察する為に、再生する事は非推奨です。
…再生されますか?


得体の知れない頭蓋骨の悪魔に連れて来られ、彼女は恐怖や疑心が混じり合う隊員達を宥め乍ら――この宮殿の主を見上げていた。いや、正確に言えば“悪魔”であるのだが。
「アスラからこの地に侵入してきた者達が居ると言う報告があって、配下達を遣わせてみたらまさか、人間がこの地にやって来たとは…面白いものよのう」
見た目は一見人間である――が、騙されてはいけない。彼女――ゼレーニンからすれば、エルブス号の隊員を嬲り殺していった此処の悪魔達の親玉であるのだから。
「…貴方達の要求は何?」
恐怖のあまり後退っている年下の後輩分である科学者の女の手を握り締め、ゼレーニンはその悪魔を嫌悪と侮蔑の目で見上げる。

「…ふふ、そのうぬを見上げる憎悪の目付き…愉快であるぞ。人間と言うのは、意図も容易く他者を愛し、自らを穢す者を憎悪する。――そこの女、うぬの配下となれば――他の人間にも手厚い優遇をし、うぬの地位を――」
「――ふざけないで!私の同僚を容易く殺したくせに、その薄汚い目で私を騙そうとしているのね!?貴方達悪魔との交渉なんて真っ平御免よ!」

ゼレーニンは反発した。よくもいけしゃあと自分達を彼と同じ立場と平等にしようとする――その汚いやり方で、仲間達を殺したくせに!
彼女の言葉を受け、嫌悪と憤怒が入り混じった顔をし、その悪魔は一瞬自分に歯向かった彼女に対する憎悪の目をこちらに向けながらも、支離滅裂に叫んだ。
「――そんなにアタシの配下になるのが嫌なのか!どこまでも!愚かな!人間の意地を張る!薄汚い者共め!あの羽虫共と――」
「み、ミトラス様!落ち着いてくだいまソ!この者達は少々手荒な扱いでこちらを迎え入れただけでソ!」
「…成程、それなら仕方がない…そんなに配下になるのが嫌なら、此方にも少し考えがある――この者達を牢屋に連れていけ」


「何をするつもりでしょうケ?」と配下の悪魔のビフロンスは少々惚けて、こちらを見上げている。
「――あの女以外の者は殺しても構わぬ。寧ろフォルマが手に入るリスクが上がるから都合が良いのだ。――あの女は身を持って知るだろう。つまらぬ意地を張り続ける限り、うぬらの友は成す術も無く殺されるのだ。あの女がこちらの配下となると決めるまで」
それはつまり、ミトラス成りの御持て成しであり―――細やかな復讐でもあった。


……再生、終了しました。
……お疲れ様でした。
これがシュバルツバースで起こった出来事です。このファイルは任務シーケンスが全終了した為にアーサーのデータを極秘にサルベージし、コピーしておいたものを保存したものです。
……それでは、よき明日を。
パスコード:XXXXXXX
閲覧者:ベテル日本支部代表・■■■■■






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