ノア-ある傍観者の涯 I -
探究の為に自らを捧げる、ある魔神はそう告げる。力こそすべて。ある鬼神は提唱する。混沌であれ、ある魔王は嘲笑する。
世界は繰り返し、繰り返す。
マンダラの法則を一定的に繰り返す。絶対なる神に忠誠を誓う天使達か、混沌を統べる悪魔達か、多神の神々が支配しようとも、『それ』は繰り返される。そう言った循環を、見てきた自分にとっては退屈だった。
王が倒れし時に新たな世界は生まれ、王が座に付けば新たな世界は生まれる。そういう循環なのだ。だけど、それは自分にとっては毒にも薬にもならない。
ある者は提唱した。神の教えと導きは絶対だと。
ある者は言った。世界は八百万の神々が統べなければならない。と。
ーーそれはどちらも正しくて、間違いでもある。だから人や悪魔は互いを慈しみ、互いを爭う。
自分はこの世界に"干渉"出来やしない。犯した罪と過ちと共に。その代わり世界を傍観する事は出来る。
ーーけれども、座に就く者達がアトゥムでも、バアルでも、ラーでもーー世界の法則は変わる事があっても、この循環からは逃れられる事が出来ない。
ある者は言った。王の座に就けば、世界の法則は変えられる。
ある者は提唱した。王にならず、混沌を受け入れるのだ。
けれども、事象の存在を薄々と感じ取っていた。彼は何をするのだろう。あの戦い以来、姿を現さなかった彼がーーー一体の悪魔を捉えた。それは、今は亡き国津神を模した悪魔であった。いいや、悪魔――ではない。神造魔人、であるが。
「(彼に、何を芽吹かせた?)」
知恵の種、と言うべき存在。これから起こる――禁じられた存在を誕生させるためのもの。
「(……ああ、彼は本当に、傲慢な存在だ――)」
明けの明星と言われる美しき堕ちた天使は、一人の神殺しを誕生させた。彼に続いて何をする気だろうか。又、神殺しを生みだすに違いない――いいや、今度は違う。
「――君ひとり、好き勝手にはさせないよ」
こうなったら、自分も行動に移そうか。
これから起こる未来を、邪魔させるための些細な嫌がらせをしよう。
ーーそうして、運命にいたずらして、彼の望みを変えるべきなのだ。
そうして、時は巡る。
此れから始まり、此処より終わる、終着点への旅を。