望まずに生きる事も、



「何だか、父親みたい」
自分はそう言い、ローテーブルに腰掛けて足をぶらぶらさせている。この長い間、色々な話を聞かせ、神話の間に紐解かれている秘密や逸話を聴きながら――何時の間にか、この白き竜にそう呟いていた。
誰しもが「古竜は恐ろしい存在だから、近付くな」とそう言っているけど…自分にとってはそうではない。恐ろしい存在なんかじゃないって思えるようになってきたのだ。病弱な母を労わり、白き竜から色々な話を聞かせたりしているからこそ、無知のままでいたくない、何かを知るのは罪ではないのだから。
『――それは、本心か?』
「ううん、本心じゃないよ。僕から見たら、シースは何だか父親みたいだって思えてきてしまう。ほら、父さんいないから』
白き竜は黙り込む。自分が変な事を言ったせいだろうか。それはそうだ、母親しか家族が居ないし、友達なんて出来る訳が無い。そんな自分から見たイメージがこんなんだと、軽蔑されるに決まっている――そう思っていた矢先に、
『――悪くは、ないな』
「…えっ?」
『元々他の者達から腫れ者扱いされて生きていた我にとっては、悪くはない響きだ』
シースが裏切った理由は、単に鱗が無いからグウィン側に寝返ってたと、ずっと思っていた。でも、それだけではない筈だ。彼にとってはあの場所は窮屈だったのかもしれない。…そう、自分も、彼も。
「じゃあ、ずっと、ずっとこの場所にやって来るから!僕が――」
『それは止めた方が良い、小僧』
だから、ずっとこの場所にやって来て、父親代わりなんて、言わないけど。この日々が続くと、そう信じ切っていた自分が、愚かだと思ってしまうのは、何故だろうか。

『――いずれ、この場所は無くなる。それらがずっと続くと永遠であると思い込むのは愚かだ。…だから、お別れだ。小僧』


――母が「もうこの場所に居られなくなった」と泣きながら告げ、自分は母親の故郷である東国に戻る事になった。あの後、火が消えかけ、それらの影響か小人達はあの場所に居る事が出来なくなったと知った途端に、シースが自分の身の危険を察知して追い出してくれたのだろうか?と思い込んでいた。


そして、それらが無知であり、自分が愚かであると知ったのは――母親が亡くなってからの事だった。






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