ただひとつの、



「あっ…ど、どうしよう…!」
見つかってしまった。その声の主は、白く、透明で、鮮明な色をしていた。上を見上げれば――異形の姿をした竜が、大広間に屯っているのが見える。一方下半身は異形ともいえる存在であり、母親の子宮のような物体を包まっているような姿だった。
これが、グウィン王と古竜との戦いで古竜を裏切り、グウィン王に勝利をもたらした白竜――その偉大なる竜がこちらを見ているので、ついうっかり尻もちをついてしまった。すとん、と床にうっかりへたりと落ちるこちらの姿を見た竜は――何処か興味深い表情をしている。嗚呼、喰われる――そう思い、死を覚悟した矢先に――白き竜は、意外な一言を発する。

『貴様は――何故此処に入れたのだ?』


それは、意外な一言だった。それはそうだ。グウィン王の関係者以外にしか入れないこの書庫は、小人が入る事は許されない。自分の――父親の血筋のせいだろうか。恐らく、そうだろうに。
「…そ、の…僕の、父さんが……」
どうしよう。こんな事を言っても信じてくれないのだろうに。自分の父親は神様で、母親は小人である事を――。
『…そうか、貴様も忌み子か。不義の子、生まれてはならない存在、禁じられし存在――本来なら、絵画世界に送られる筈だったが――どうやって逃れた?』
「――え?」

『貴方のお父さんはね、こんな成りの私でも愛してくれたのよ。生まれてくる子の名前は何にしようか。例え辛い世界でも、この子だけは精いっぱい生きて欲しい。そんな風に仰って、生まれたばかりの貴方を愛してくれたの』

自分は両親に愛された記憶がある。筈なのに、記憶の断片が曖昧で、それでも生きるのに必死で、本来ならその絵画世界に送られる筈だったのに――父親の記憶なんて、無いのにも等しい。恐らく、追放された――と言っているから、既に他界しているだろう。
それでも、
「確かに、運が悪かったら僕は…でも、父さんは――僕をこの世界で強く生きて欲しい。と言ってくれた」
例え蔑まれようとも、
「――だから、誰かの為に生きる事が出来て、強く生きられたら…きっと父さんも――」
父さんも?こんな自分を報いてくれるのか?違う、そうじゃない。これは自分の不確かなエゴだ。だけど――それでも、誰かの為に生きられる事が出来たら、きっとそれで幸せだ。

『――そうか、お前の言い分は理解した。こちらも丁度、"退屈"をしていたのでな』

「…退屈?」
それは、どういうことなんだ。と問おうとしたら、白竜は告げる。
『この書庫には私の部下と、白き神と、子しかこの場所に来ない。どうやら思えば思う程、"退屈"をしていたようだ。だが、お前の目を見て思った。こいつなら、退屈しのぎになれそうだ――どうだ、私の話し相手にならないか?』
…それでも、この白き竜は自分を試したがっているのだろう。自分が良き器となるか否か…けど、それでも何かが変わるって言うのなら――自分が、何かの為になれるのならば…その誘いを、断る筈も無いだろう。

「…分かったよ。でも、一つだけ約束しておいて。僕を―――僕は、列記とした…人間だから」






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