「■■■は、この地に来てどう思う?」
「…別に、何も感じてないよ」
あれから、一人で拗ねて帰った後に母親は自分が無事だって事に胸をなでおろし、そっと抱き締めてから夕飯を食べる事にした。野菜とお肉のスープをゆっくりと食べ、咀嚼音が出ないように、ゆっくりと口に残っている野菜を噛み締めてから飲み込んだ。
母親が一人で泣いている理由が分かってしまった。この場所に自分たちの居場所なんて何処にも無いのに。それが、答えだったから。けれど、自分は母親を支える事にした。一人じゃないよ。そうすれば、元気付けられる事も出来るし…安心させる事も出来る。けれど、胸のつっかえがどうしても取らないから。こんな事を言うのは――傷付けるだろうか。思い切って、母親に問い掛ける事にした。
「……母さん。父さんって、どんな人だったの?」
ひとりで歩いていた。あの時、初めて外に出た時に――フードで身を装っていたから、その当の本人である事に気付かずに彼等は優しく接してくれたのだろう。それとも、自分を畏れるような目で押し付ける様な形で。と考えるうちに、この場所がとても窮屈である事に内心不満を持っていた。母親が、自分が外の世界に出て欲しくない理由も分かった。だが、他にもっと別の方法があった筈では?
(…けど、それが愛情だと思っているからこそ――自分の身を守る方法なのかもしれないのに…)
そんな事を思えば、何時の間にかアノールロンドの宮殿外に迷い込んでしまった。どうしよう、帰り道が分からない。
…ただ、ふと振り向くと、アノールロンドの使いの聖女や絵画守り、銀騎士とは違う、異様な雰囲気を曝け出す衣装をまとった使いが何処かに向かっていく。それがどうしても気になって、こっそり付いて行く事にした。
柱に上手く隠れて、獰猛な猪の視界を掻い潜り…漸く辿り着いたリフトがある場所で錆びたレバーを引っ張れば、上へと上がっていく。そして辿り着いた場所は――大量の書物が眠っている場所だった。
「(あれっ、此処は…)」
そう言えば、母親から聞いた事がある。グウィン王の戦いで、古竜を裏切ってグウィン王に付いた風変わりな竜が書庫に引きこもっていると。この場所に辿り着いてしまったのだろうか?
どうしよう…見つかれば、ただでは済まされないのは分かっている。それならば、来た道を戻ろう。と考えた矢先に――。
『其処で何をしている』