断章



ひらひらと、桜が舞う。俗物が住む事を許されない悠久の楽園(ユーフォリア)…と誰が言ったか、そのかけ離れた理想とは逆に、醜悪なる大いなる存在が住まう楽園とも言われている。

その楽園の――大きな岩に、ひっそりと立ち寄る客人が居た。この客人は楽園の民でもなく、その楽園を敬う民の住民でもない。それが、立ち寄っただけ…と言う訳でもなく、この国は楽園でも何でもない。と言う現実を見据え続けているだけの男でもあった。故に、見据える事しか出来ないのではなく、この世界はどうしようもなく――、■■。

「久しぶりだな」

まだ成仏出来ていないのか。と言わん素振りの口ぶりだった。男は、彼を知っている。彼を、知っているからこそ――ため口も出来るのだ。
「此処までたどり着くまでの間、色々あったから――…そう、楽しい事や、悲しい事。辛い事もあった――だから、私は…」
それ以上は言えなかった。此処までたどり着くまでの間――辛い事や、悲しい事の方が多かった。楽しい事、と言っても。楽しい、とは何なのだろうか。と一瞬考えた事がある。だから、彼に必死で誤魔化して伝えようとしたのだ。自分らしくない。

「――でも、私は誰かを恨まなかった立派な聖人で、騎士だったけど、騎士で、聖人なんかじゃない。誰かを恨む事でしか、言い訳出来ない存在だ」

だから神秘の色は色褪せて、きっとこれからも辛い事が起こる。奇跡も、理想もありはしない。

「他者を犠牲にするのが当たり前だから、きっと彼等はこれからも同じことを繰り返す。こんな世界は間違っているから、恐ろしいから、怖いから――…でも、私は貴方に言いたい事が山ほどあるのだから」

さて、何処から話そうか。そうだ、これは自分と彼の出会いからはじまった物語だ。そこから始めるのも悪くは無いだろう。

「――この話は、きっと誰も、幸せになれなかったけれど…それでも、必死に生きようと藻掻いた、彼等の話だ」

だからこそ、この物語はハッピーエンドで、終わる筈も無いのだと。彼も、自分も知っているのだ――それが、結末がどうであれ。






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