或いは聖人気取りの、



師が亡くなった。

曰く、誰は語る。
あの男は愚か過ぎたのだと。

曰く、彼等は罵る。
臆病者であったと。

ーーその師を殺めたのは、他ならぬ自分自身だった。

師は、闇に飲まれかけていた。突然、異形化し――自分しか頼れない家の者達は、掌を返すように自分に怪物を討伐しろと言った。彼は、苦しんでいる。だからいっそ楽にした方が彼の為になるのかもしれないーーそうして、切り捨てた時に掌を返す態度をした家の者を見て、愛想を尽いた表情をした自分が一番、嫌だったのだと漸く気付いたのだ。



ーーある一人の不死が、火を継いだ後のロードランにて。

「――ほう、あの忌々しい存在の臭いがするな」
誰も居ないーー使われていない祭祀場にて、自分はとある蛇と出会った。自分が住む国が嫌で時折家出同然にふらりと旅をする事が多くなった。

グウィン亡き後にふらりと現れたある一人の不死は、グウィンの後を継いで火継ぎを行い――世界は闇に包まれる事なく救われた。その轟轟と燃え盛る火は、今でも世界を照らし続ける光となる。
それがロードランにおける伝承である。しかし、その聖人ぶる伝承が怪しいと感じた自分は、それを確かめる為にこの場所に行ったのだ。
その祭祀場で出会ったのが、フラムトと言う蛇だ。フラムトはグウィン王との約束を守る為に、火継ぎの時代を続けなければならないと言う絶対を尊重するのだ。だが、自分を見て何か――違和感に気付いたらしい。
「…違和感とは、何だ」
「お前の身体から、結晶を纏った醜い存在の薫りがすると言ったのだ」
恐らくシースの事を言っているのか?それにしても失礼な言い方をする蛇だ。
「――あの竜は忌々しい存在だ。死にたくない、それだけの為にグウィン王に寝返り…竜の弱みを彼等に教え、与えられた立場を甘んじて鱗を作る為に幾多の者達を犠牲にした。そんな竜の味方をして、何になると言うのだ?」
ーーそれは、自分も知らない彼の一面だった。あの狂った牢獄のような場所がその様な出来だったとは。けれど、自分は受け入れることも拒絶する事もせず、ただただ「そうなのか」と答えた。
「…貴方が余程失礼な事を言う存在と言うのは分かった。…だが、私の質問にも答えてくれないか?」
「何だ、言ってみろ…客人」
だから、その答えてはいけない、疑問をーーどうしても、答えて欲しいと言う願いでもあったのだ。

「…その火を継いだ、不死をーー悲しむ者は居なかったのか」

フラムトは答えなかった。あの場所でそれを嫌と言う程思い知らされた身だからこそ言える、この疑問を。

だが、フラムトはこの禁忌と同然であろう、疑問をーー意外にも答えてくれた。
「そやつは、確かに同じ同胞達に恵まれていた。――ただ、次々と、死んでしまった。もれなく全員、亡者と化し…そいつらを手をかけた事で、な」
――それは、あまりにも苦しい答えでもあった。
「王と言うのは、屍を重ねた末に出来るものなのだ。だが、死は必然でもあり、糧でもある。積み重ねた屍は薪となり、燃え盛るはじまりの火を支えるものなのだ」

けれど、それは聖人気取りの言葉でもあり――甘いささやきとも言えるのだから。
「身の程を弁えろ、異邦の者よ。お前に火継ぎを否定する権利など、何処にも持ち合わせていない」


「(今思えば、師の言う通りなのかもしれない、が…)」
この世界は、調和を崩し――滅んでいく。それはそうかもしれない。けれど、あのフラムトの言う事に…自分の言い方が気に入らないと感じた。
火継ぎを行う事が、本当に世界を救うのか?と言うような疑問を答えてしまったのが、不味かったのかもしれないのだろう。

師が自分に宛てた手紙を、焚火にくべる。それは、この場所を出て行く準備をする事でもあった。
「――この国は、もう長くは持たない、か」
互いを憎しみ、疑い、滅ぼし合い…それ故に力への渇望、殺戮を行う躊躇いを持たない者達が蔓延りばかり。
家の者達は、役立たずの彼等に代わり後を継いで欲しいと言う。
それは、哀れみを持たないのと同意義だ。

師の遺品を整理している最中に見つけた、古ぼけた刀を持つ。この刀で、彼は多くの者を殺し続けたと言う。

自分が師と同じ末路を送るか、それとも別の道を行くか――決めるのは、いつだって自分。それを心に刻みながらも、国から出て行った。






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