少年と藤の花(後篇)



旦那様が不死街で小間使いをしていた私めを拾ったのは何時頃でありましょうか。この国では不死と言うだけで迫害され、隔離された不死街で暮らし、亡者と化せば亡者狩りに斬られて最期を迎えると言う悲惨な状況を、旦那様が私を迎え入れてくれたのです。態々不死である私めを拾って下さり、何を得をしましょうか。そんな私めを庭師として迎え入れ、私めは旦那様の体調や具合を気遣いながらも、この狭く、温かき場所で最期を迎えても良いのかもしれない。と思うようになりました。

旦那様はある時、顔色が優れない子供をこの場所に連れてきました。どうやらこの家の者達による陰険な苛めを受けており、話によれば馬鹿力で彼等を返り討ちしたと言うのです。行く当てもなく引き取る当てもない子を、旦那様が育てると言っていたのです。嗚呼、可哀想に。私めと同じ迫害され、虐げられて辛い思いをしましたでしょうに。
その子供は、最初は暗い表情をしていましたが…少しずつ、明るい表情をするようになりました。咲いていた花を見て「これはどんな花なの?」と問い掛けたり、私めがいない間に庭園を走り回ったりしていました。私めは幸せでした。暫く孤独だった自分に、こんな暖かな光景は、光に思えるようでした。

「ねえ、これは何?」
私めが藤の花を採っている最中に、坊ちゃまは藤の花や菫、紫陽花の花束を見つめて問い掛けました。
「坊ちゃま、これは花束ですよ」
「知っているよ。何で花束を作るの」
「遥かロードランの地では、白き竜の祈りの為に捧げると言います」
「白き竜……」
「…坊ちゃま、如何したのです?顔色が険しいですよ?」
「い、いいや!何でもない!」
その時の坊ちゃまはとても険しい表情をしており、白き竜と言う言葉を口にした瞬間に口を濁らせているようで。けれど、私めは過去を問い詰めません。過去を問い詰めても、かえって傷付くだけです。
「良ければ、坊ちゃまもどうですか?」
ですが、私めは少しでもいいから、坊ちゃまに何かしらの贈り物をしたかったのです。少しでも、心の傷が癒えれば良い。と願いながら。




…嗚呼、そんな顔をしないで下さい、坊ちゃま。私めは不死。この身が不死でありながらも、何時しか亡者と化す存在。けれども、薄暗い倉庫で一人、辛い孤独と暗黒に包まれて死ぬのは寂しいものです。ですが、私めは幸せでした。旦那様に拾われ、坊ちゃまと日々を過ごしたことは、決して忘れません。ああ、記憶が薄れていき……私め…は…この場所で……過ごせて……幸せで………。





「………何が、幸せだよ」






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