けれど、彼は痛いと叫ぶ事も、泣く事もしませんでした。
お月様は、彼等を見守ります。陰の太陽は、彼等に祈りを捧げます。何かを失う事も、何かを理不尽に奪われる事も、何かを失わなければいけない代償を払う事も。
彼は理不尽な世界を生きることに必死でした。何もかもを理不尽に奪われ、永遠にそれを手にする事は無いと分かっていながらも、彼は其れでも約束を守ろうとしました。
ーー永遠に失われた都市を、永遠に失った約束を、永久に叶う事も出来ない願いも、彼は必死で忘れる事はしませんでした。
ーーそう、彼は愚か。すでに失った約束を叶えようとする彼は、愚かなのです。
愚かなのに、それでも彼は、立ち止まる事をしなかった。たった一つの約束、たった一つの願い、たった一つの祈り。
彼は――それらの祈りを叶える事こそが、彼自身の為だったのです。
ーーこの世界に、抗う為に。