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夜の実証 と 張り詰めた彎曲


――ある白教の国には、こんな逸話がある。

ある国の王の所に、一羽の小夜啼鳥が止まった。その小夜啼鳥は美しい歌声をしており、その美しい歌声に魅了された王は、小夜啼鳥を宮廷に仕えさせて、歌声を王宮に仕えさせた。しかし、ある時東国から絡繰り仕掛けの小夜啼鳥が送られ、疲れる事のないその永遠の絡繰り仕掛けの人形は、美しい歌声を永遠に響かせた。王はその歌声に魅了され、彼女は何時の間にか、姿を消していた。

しかし、それは永く続かず…絡繰り仕掛けの小夜啼鳥は歌うのをやめてしまった。壊れてしまった小夜啼鳥を誰も治す事が出来ず…王は絶望に苛まれてしまった。

絶望に苛まれ、国は荒れるばかり。王は死を考えようとしたその瞬間。あの小夜啼鳥が現れて、あの美しい歌を響かせた。絶望の底から這いあがった王は、小夜啼鳥と再会を果たした。
彼はこう言った。「もう二度と、傍を離れないでくれぬか」と。
彼女はこう言った。「ええ、喜んで」と。

二人は結ばれ、二人は末永く――幸せな国を治めたと言う。


――火継ぎについての本を、積み重ねて思う。
誰かの為に生きるのは、果たして素晴らしい事なのだろうか。
自分は其れが出来なかった――そんな事すら、許されないのだろうか。と考えた事がある。

誰かの為に生きる事が出来たら、どれ程素晴らしいのだろうか。と、息が詰まる思いをしたことがある。それなのに、そんな事が出来ないと否定されれば、猶更悲しい。
「――小夜啼鳥は、誰かの為に生きられるのがとても幸せだった。けれど、絡繰り仕掛けの小夜啼鳥は、果たして幸せだったのか?」
自分と、彼と――彼女の事を思うと胸が痛い。だから――猶更死んだ方が良いのでは?と自分で自分を思い詰めているのかもしれない。

「おお、此処に居ましたか」
倉庫を部屋代わりに使っているために、誰も此処にはやって来ない。いや、部外者である自分に近付こうとしたくないから、誰も来ない。と言う言い方が正しいだろう。
「――どうですか、何かわかりましたか?」
「…いいや、何も」
それはそうですか。と老人は肩を竦めた。彼は大書庫を棲み処にしている不思議な賢者だ。火継ぎを懐疑している故であって、誰も近付こうとはしない――のだが、王子や古老の弟子に好かれているらしい。
賢者は、自分のテーブルに置かれている小夜啼鳥の本を見ておや、と気付いた表情をしていた。
「――好きなのですか?」
「…好きじゃない、が…嫌いでも、ない」
そんなぎこちない答えをしてしまった自分が情けなく感じてしまう。死んでしまいたい気分だ。とはこういう事だろうか。

「……そう言えば、古き凍て付いた都市に――失われた歌があったと聞きました」
自分の気持ちを汲む為に、老人は言葉を紡ぐ。

誰かの為に生きられたら、どれ程幸せだろうか。
誰かと結ばれたら、どれ程幸せなのだろう。

――私は、どちらも選ばれなかった。だから小夜啼鳥にはなれない。何者にもなれない、壊れかけの存在だから。

「――けれど、貴方は其れを知っていますので、お願いしたいのですよ。一曲、謳っても良いでしょうか?」
けれど――それでも、何か出来るのなら。それを掬い上げて、死人を想い合い、貴方を忘れたくないと願う心を、失いたくない。だから私は、歌を謳った。

私は永遠に、小夜啼鳥になれないのだ。


「――永遠に、結ばれて幸せになりました…とさ」
それが、物語の結末だった。だけど、そんな結末になる事すら許されないこの世界を、生きる権利は誰しもが持っている。
「…私は、貴方の為に…生きられただろうか?」
――それが出来たら、彼も、彼女も…今でも幸せだったのだろうか?本を閉じ、本棚に押し込め…静かに、椅子にもたれかけ…瞼を、閉じた。






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