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囀る天使 と 色硝子の義眼


「――お久しぶりです、グランダル様」

目の前に現れた娘は、前と比べて痩せ細っていた。あの過酷な極寒の地で一人祈り続けるのは忍耐が要るであろうに…彼女は小人や小さきもの達とは違う『闇の子』故に、特別な存在であるのは間違いなかった。
「…お前が暫くの間行方が分からないままだった故に、無事だったとは…」
彼女は深淵の眷属の中でも最も純粋であり、最も恐ろしい存在とも言える娘だった。それ故に、父なる存在にして代弁者とも言える賢者である自分の前に現れるとは…余程過酷な辛い事でもあっただろうに。

ああ、あれは何時だったか…深き闇の穴に異変が起こったと悟り、自らが出向いた時は、異形に抱えられた彼女は胎内にもう一体の異形の存在を宿していた。想像を絶する力に耐え切れず断末魔に近い悲鳴を上げた末に出産したそれは彼女の力を宿した存在でもあった――それ故に、二つで一つの存在である彼を、あの場所に封印したのは同時に彼女の為でもあるのだ。
彼女はもう二度と闇を使う事は無いだろう。王を駒扱いしている他の深淵の眷属たちとは違い――彼女は本当に、自分を愛してくれる王の為にもう二度と使わないと誓うのだ。

「…お父様に会いました」
「…マヌスに、か?珍しい…未だに、娘達に未練があると言うのだろうか?」
「私を、心配して呉れました…」
珍しいものだ。あの深淵の主の成仏しきれない魂が、哀れな娘を慰めに来たと言うのだろうか?
「――グランダル様」
「何だ、娘よ」
「私はもう、あの力を振るいません。こんな私を愛してくれた我が君の為にも…ですが、彼等は同時に弟であり、子である存在。私が直々に手を下すのも、辛いのです」
「…だから、彼等を私の所に預けると?」
「……ええ、そうです…。もしも、私の願いが果たせるとしたら…お願いが…お願いがあります。もし、私が死んだら――」


(――この子らを、元の場所に還して欲しい。とは言ったものの…)
名も知らぬ呪われた不死にそれを任せてしまった自分が不甲斐無く思える。これはマヌスの娘の最期の我侭と言えるのに…。
しかし、話を聞くに次々と偉大なるソウルを抱えた人ならざる者達を次々と倒しているらしい。もしかしたら――もしかしたら、の話だ。娘達の自分勝手な我侭…或いは、彼女の最期の願いも聞き届けられるのかもしれない。

(お前は私を決して許さないと思うのだが、賭けてみる価値はあるのかもしれない、な…)

呪われた不死である彼を、深淵の穴へと誘う。彼女の子供たちを打ち倒せるとしたら、それは大きな賭けと言えるのだろう。






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