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燃える骨 と 火の後遺症


掌の宝石箱に残されたのは、莫大な富と、ありあまる名誉と、虚しさだけ。
それは火の時代、そして深海の時代になったままでも――未だ彷徨っている想い。亡霊は、ただただ後悔と疑念に渦巻いた世界に取り残されているだけなのだ。

――彼女を、除いては。


アーロンの姿が見当たらない。兵士の報告によると「突然、国から出て行った」と言う事実だけだった。昨夜は少しだけ口論をした…度重なる不死の呪いによる呪われ人の増加と、それの対処を彼に伝えただけだった。ただ、少しだけ…余計な一言を言ったのかもしれない。それがどうしても思い出せない。
豊富な鉄を採取して、莫大な名誉を築いた鉄の国。ただ、その大事なものを失った虚しさだけが渦巻いていた。あの時、あの頃、とても幸せだった時。彼女を元気付ける為に、夢や野望を抱いたあの時、彼を迎え入れたあの頃は、とても幸せだったのだと思っていた。ただ、それらを失った虚しさは、富や名誉で補う事でしか出来ない。
ただ、鉄の城が完成した際に――現れた、燃えるような異形。自分の前に現れたその異形は、兵士たちを剣で焼き尽くし…そして、遂には自分を、炎に飲み込んだ。

そうして、長らくの間…どれ程の時が経ったのだろう。海の時代が時を告げてやってきて、人ならざる者が蔓延る、時代。自分は、半透明の亡霊のまま、この薄暗い遺跡を彷徨っていた。成仏出来ずに、彷徨う魂。彷徨う自分。

…ただ、何処からか煙る、煤の香りが、懐かしいように思えてきた。この香りは、一体どこからやって来たのだろう。そう思い、香りを辿り…見つけたのは、炭骨の装束を身に纏った女の姿だった。
彼女は、何処か暗い表情のまま俯いている。膝を抱えたままに、動かないまま。何処からか、この女には懐かしい香りが煙っているのに、ただ、それが…どうしようもなく愛おしいのは何故だろうか?そして、女が口を開いた。
「     」
誰かを呼ぶ名前。その一言だけが、自分が漸く――どれ程大事にされてきたか。過ちを犯してきたかに十分だったのだ。

「………?」
目を開けると、何処か鉄の香りがした。自分は、この場所に居る。のに、柔らかな、暖かな熱が、自分自身を纏っているのは、何故だろうか。彼女は大切なものを失ったばかりに、一人でいる。ひとりぼっちは、もう慣れた。なのに、一人じゃないような感じがする。
「…お前なのか……?」
亡霊は、未だに成仏できないまま、この地を彷徨っている。ただ、一つだけ違うのは…亡霊は、孤独な存在ではない事と――ようやく、その事実を受け入れた事だ。ただ、自分の傍に居た。自分が一人ぼっちにならないように、この場所に留まっている。
「馬鹿な男だ、もう」
彼女は、そんな亡霊の態度に苦笑しながらも…天井を見上げた。

掌の宝石箱に残されたのは、莫大な富と、有り余る名誉と――ひとかけらの、ガラス玉。
それは、何よりも価値のある宝石だった。






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