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錆びた剃刀 と 痩犬


あれからどれ程の時が経ったのだろう。呪われし者が自らと戦い、選んだ運命の果ての物語を。
繰り返し行われた火を継ぐ者達の栄光の物語はやがて色を褪せていき、灰と成りゆく者達が現れても尚、自分は白き竜が残した転生の術を使い――この地に魔術等を王家の者達に教えている。私の人生の中で、一番興味を持ったのが彼だった。

何でも、本物の白き竜を見たと言うちっぽけな、誰もが信頼していないであろうその事実を胸に抱えたまま、生きているし、死ぬ事は出来ない、何のために生きているのか分からない彼の話は、旅路で出会い、そして喪失を繰り返しても尚、この世界の為に生きている訳でもなく、ただただ、自分の為だけに生きている貪欲な人間の成りそこないである。

「…最初は、信じられないと思った。白竜の話は、今の誰でも信じていないと思うけど…すごく、面白かった」
子供の頃の私には、純粋過ぎた話だと思うけども。彼の話は、少し悲しげなトーンの口調で終わった。
人生で一番幸福な死に方が出来ると思うのならば、誰かの為に生きると言う事。強要される訳でもなく、ただただ当たり前に生きて当たり前に死ぬと言う事。

蛇からすれば世界の為の殉教者であると言う事でも、彼からすれば大事な人達に変わりは無い。

「生き方を教えてくれた人だからこそ、この世界を嫌いになれない。…確かに、酷い目にも遭ったし、悲しい事もあるし、生きるのは何よりつらいけれども」

彼自身が選ぶ道を、肯定して呉れる存在が自分自身で、彼には大事な人達が居る。それに…。

「…約束、したから」

果たされない約束を、果たす為に此処に居る彼の表情は、ふと緩んでいるように思えていた。

それでも自分を愛してくれた人の為なら、喜んで殉教者になる訳じゃなく――ひたすらに生きようとする彼が、一番人間らしいと思えるのだろうから。






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