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空言 と 合理的な誘惑


私達は、あの白き竜の使いである伝道者に連れ去らてこの場所にやって来ました。聖女である私達を実験体にして、白き竜は鱗を作る為の手段を作っていきました。彼女達は次々と得体の知れない人ならざる者になり、耳障りのする音で次々と正気を失ってしまいました。
私達は太陽の王女に仕える聖女の身でありながら、この様な醜態に晒されるのは死ぬより恐ろしい事なのです。
私達は泣いていました。誰か、この永遠に続く地獄から私達を解放して下さいと。

ある時、白き竜と蛇人と使いの者しかいないこの牢獄に、一人の少年がやって来ました。不思議な感じがしました――そう、それは太陽の王女や偉大なる大王に近い存在の雰囲気を纏ったような、感じの。その逆の、人ならざる存在を纏った存在とも言える。
白き竜は言っていました。不義の娘は、その忌むべき力を恐れた大王によって絵画世界に閉じ込められたのであると。
では、彼も又彼女と同じ何かを恐れられた大王によって絵画世界に閉じ込められるはずの存在なのでしょうか?
けれど、彼は…まるで何か祈る様に、本を開きました。

「誰も、差別されず、理不尽な仕打ちを受けず、平等に、何もかもを許し、何もかもが居る事を許される…そんな楽園を作りたい。と彼は、別れの間際に彼女にそう願いました」

嘘です。そんな理想が叶う訳が無いのです。
私達のようなちっぽけの存在が、塵のように消費されるだけの地獄があるのです。それが、どうして叶えられると願ったのでしょう?

「――もしも、彼等が少しずつ、優しくなれるのならば…貴方は、追い出されずに済んだのでしょうか?」

声音が、震えて、零れる様な形でありました。それは、聖女が聖書に刻まれた物語を読むように…辛く、悲しい事でした。

貴方も、辛い事があったのでしょうか?
嗚呼、せめてこの身体が人ならざる身では無かったら抱き締めに行きたい…それが、どうしても出来ないこの身体が憎いのです…。

それっきり、彼は来なくなりました。
彼は、どこかに消えたのでしょうか?願わくば、彼に安らぎがありますように……そして、私達の苦しみも、何時か解放されますように。


「―――大丈夫か?」
優しげな声音で瞼を開ける。傍に彼女が居た。暫く仮眠をとっていたのか、少し頭が混乱している。
「…少し、魘されていたから」
「ああ…少し、懐かしい夢を見ていた」
夢?と彼女は困惑いぶかしげな顔で此方を見ている。けれど、あれは…箱庭の中の楽園に閉じ込められていた夢の様で、一瞬の、ひと時の、楽園のようなまどろむ、夢のように。
優しい声に包まれて、愛されたような気がして…。
けれど、今は――前を向く事しか、考えられなかった。

「いいや、何でもない」






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