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絞首台 と 咎人の誓い


アルシュナの気配が弱まっている気がする。

グランダルは察しが良い。深淵の主の代行者とも言える存在の彼であるが、暫くの間血を分けた娘達の行動を見守っていたが、今回は訳が違う。だから彼女を呼び出した――しかし、彼女はやって来た途端に、お腹を抱えて倒れ込んでしまったのだ。が、グランダルは彼女を一目見て分かったのだ。

「…お前、まさか……」

妊娠している。あの一件を任せた後――暫く何も起きない筈が無く、こうなった以上彼女を咎めるべきだったと自責する。自らの子と交える行為を禁じるべきだ、と言うべきだった。

娘が他社と交える行為で出産する子は大抵が異形の存在と言うべきだ――ただし、それは雄の存在であるときの話である、が。

寄り添うべき者が居なくなった途端に、一気に彼女が自身の喪失の恐怖に駆られたのは予想していたのは分かっていたが、此処までとは。
「…止め、ないで下さい…愚かな行為なのは、分かっています…」
陣痛が始まり、出産を始めている――こうなる事くらい分かっているのなら、意地でも彼女を…いや、変わらなかったのかもしれない。こう見えても、意地が強い存在なのは間違いない。
「はぁ…あぁ、ふっ…う…あ…」
息を吸いながら、ゆっくりと吸って、吐く。ぼたぼたと下部から水が零れ落ちる。激しい痛みに駆られながらも、赤子の頭が出始めた。
「あぁ…ふぅ…くっ…ひぃ、ああああああ!」
自分が一気に引っ張ると、どろりと大量の血が零れ落ちながらも、ほぎゃあ、ほぎゃあと小人の赤子が産声を上げ始める。彼女はゆっくりとへその緒を見上げながら、乳を子に分け始める。
(恐ろしい娘だ)
恐怖の裏は、勇気でもある――それ即ち頑なな意思を持つ証拠でもある。マヌスの娘の中である意味、恐ろしい存在とも言える。そして、小人の娘と言う事は…恐らく、性別は女である事を。
(闇の子が、闇の子を産む)
今までの娘達は王に寄り添う事に失敗し続き、血の営みや人ならざる方法で子を産んだが、どれもこれも異形の存在ばかりであった。だからこそ、今回の場合は…どうなる事か、分からないままだ。
「…グランダル様、私…」
約束を、守れませんでした。とアルシュナは謝る様に告げる。何れ白き王のソウルは消えかける。それは、彼女自身の消滅も意味するのだから。
「それでも、もう一つ…お願いがあります。この子を、誰も知られず、誰も寄せ付けない場所に隔離していただけないでしょうか」
「…この子は、私や姉さんのように悲しい目に遭わせたくありません…だから…」
自分に託すと。…彼女や姉妹は恐らく、避けられぬ最期を迎えるだろう。母親が惨たらしい最期を、この子供に見せたくないと言う意思の表れだ。それにこの子は彼女の力を受け継いでいる。だからこそ、自分に託したのだろうか。
(――運命とは、数奇なものだ)
だが、何時かは彼女にも、避けられぬ運命が来るのだろう。その日までは、ゆっくりと…彼女を何処かに遠ざけるべきなのかもしれない。




――その日、ロスリックに雪が降った。
彼女は、その雪が何処か懐かしいと感じた。だからこそ、なのだろうか。大書庫の窓から見上げる景色は、何故か…帰りたいと思うのだ。
「…どうした、クリエムヒルト」
黒い手の男の声がする。彼女は、そっと見上げた。
「いえ、何でもありません――この雪が、ただ綺麗なだけの話です」






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