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弔いの雨 と 号砲


これは、あんたの知らないアルトリウスの物語であり、鎮魂歌とも呼べる物語だ。

暗い森の庭に、孤児である二人のきょうだいが居た。勇ましい姉と、大人しい弟だ。彼等はあたしの同胞達に囲われ、獣を狩り、狩猟を学び…それを睦まじい光景だと思っていた時を思い出しながら、彼等は成長していった。
勇ましい姉は、森を守る番人として成長していき、優れた剣術を駆使していた。それを見ていた弟は、いつか姉のようになりたいと憧憬を重ねて行った。

ある時、姉は森で不穏な気配を察知してあたしや弟を置いて、その気配がする場所に向かっていった。その場所に居たのは―――怪我をした小狼だった。姉は早急に保護をしようと行動に移そうとしたが…背後に悍ましい気配を感じ取った。…それは、小狼の母であった――いいや、深淵に飲まれた母の成れの果てである深淵の魔物である存在と遭遇した。姉は、小狼を守る為に剣を振るい――………。

「…姉さん?姉さんは、何処に…」
目を覚ました弟は、傍で寝ていた姉が居ない事に気付いた。あたしはとっくに気付いていたさ。あんたの姉が何処かに行ってしまった事を…そして、森の怪物よりも、恐ろしくて救いようもない、存在が居る事を。
姉は、深淵の魔物から現れた深淵の闇を深く吸い過ぎてしまったせいか、深淵の魔物と化していた。弟はショックで動揺をしているけれども、長らく姉の戦いを見ていたのか、彼女の攻撃を難なく避けながら、姉に自分だと伝えようとした。けれども、無駄だった。あんたの大好きな姉は、もうこの世には居ないと言う事を――むざむざと、その現実に打ちのめされたと言う訳だ。
「あんたの大好きな姉はもう居ない」
「それはあんたの大好きな姉じゃない」
「深淵に飲まれた魔物だ」
「それでも姉が元に戻ると言う幻想を信じたいのか?」
「現実を受け入れな。そんな御伽噺など、存在しないと言う事を」
弟は――姉がそれでも、元に戻ってくれると信じていた。優しいその手を、握ってくれると言う事を。けれども、その考えは無謀だった。あんたの姉は、乱暴にあんたの腕を握る。弟は悟った。ああ、姉はもうこの世界には居ないのだと。置かれていた剣を握り、姉に振るい―――…。


それが、アルトリウスの始まりと言う訳だ。未だに、彼が残したものは未だに燻ぶっている。深淵の監視者――ファランの不死隊、ファランの番人、黄金の国の遺産…。
あんたは、彼をどう捉えているんだい?





巨大な猫や、鳥たちが住まう森の中――自分はひとり迷い込んでいた。長子が居ない時に、こうやって一人、森の空気を吸っていたいと思っている。誰も自分を馬鹿にせず、喧騒が届かぬ場所であると言う事に安堵を覚える。すると、草むらの中に、血だまりがぽつぽつと落ちている事に気付いた。密猟者だろうか。
いいや、この場所に密猟者だなんて…この森には、番人たちが住まうと言う噂がある。むやみに侵入すれば番人達の餌食になるだけだ。気になって仕方がない。血だまりの先を追いかけてみよう。
その先に、あったのは足を怪我している狼と、見知らぬ少年だった。
「あ…」
自分を見て、珍しいものを見ているような顔で見上げている。

そう、自分と彼の邂逅が、この物語の始まりでもあり――出会いだっただと。






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