嘘 と 幻視する器官
貴方さえ居ればそれで良かった。
彼にとっては世界のすべては正しさと間違いで出来ている訳であり、それでも自分が絶対に正しいとは思わない。全てが空模様であるように、全てが嘘である事も其れも又事実だ。
彼の父親はある理由で大王と反発した。古の竜を根絶やしにするなんてあり得ない。もっと別の方法がある筈だ。と説得した。それが大王の怒りに触れたのか、彼女より前の代である王の刃に秘密裏に暗殺されてしまった。自分は確かに王の系譜になぞる存在だ。父の叛逆によりそれを追われる形になったから、全てが信じられなくなっていたその時に、幼く震えていた私にあなたは手を差し伸べてくれた。神でも人でも、善も悪も何もかも関係なく――太陽のような存在だった。
だから私は貴方と共に居たいと願った。共に居ようと願う。それすらも無に帰すことが怖かったのだ。
けれど、貴方は信じるべき友と居る事を選んだ。この場所から出て行った――起こった王は、彼の肖像画や石像を全て、破壊するように命じた。
けれども、私は貴方の事を信じていたいと言う心を棄てたくなかった。だから―――…………を、貴方を、信じている心を持つ事が出来れば、それでよかったのだから。
「どうしたの?何で泣いてるの?」
体中痣だらけで擦り切れた包帯を巻いている子供を見つけ、彼はきょとんとした顔で驚いている。みんな仲良しなのに、何でだろうか。と思いきや…そう言えば父親が不義の子について話している事を思い出した。彼がそうなのだろうか?
「…お前も、ぶつの?」
ぶつ。それは誰かから、理不尽な暴力を受けていると言う事だろうか。だけど、そんなの関係ないと思っている。か弱い弟も居るし、心優しい姉だって居る。そんな自分を見て浅ましい、羨ましい人は絶えないだろうけど…だったら、彼もこの場所から連れ出そうと思う事は、罪ではないのだろうか。
「――ねえ、一緒に遊ぼうよ!」
「何で?自分と居ても、――何も得しないのに?」
「良いんだ、俺はお前と一緒に遊びたいんだ…そうだ、名前を聞かせてくれないか?俺の名前は―――………」
貴方さえ居れば、この世界は極彩色に輝いているように見える。
ただそれだけの願いが、私をこの世界に引き留めているのかもしれない。