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冷たい眠り と カデンツァ


貴方が眠るのなら、私も眠ろう。
貴方が歌うのなら、私も歌おう。
そうして繰り返される循環恋歌、そうやって繰り返される悲恋想歌。
もう何も怖くは無いのだから。

白夜が貴方を捉えるまでは。


朧げな母の記憶、朧げな子守歌。
家族のぬくもりというものを知らない自分にとっては、世界とは残酷で、あっけないものだった。

「はあ、はあ…」
奴隷売りと思わしき商人の馬車が、獣に襲われ――衝撃のあまり檻の鍵が壊され、外の世界に出た自分は極雪の中、降りしきる雪を凌ごうとした。けれども、動く事すらままならない。
――自分が生きようとしている世界は、こんなにも残酷なのだろうか。

幼い頃、奴隷市場に売り飛ばされた。訳も分からず、ただこの場所が虐げられた者達が生きる場所なのだと知った。
奴隷の剣闘士たちが殺し合いをし、生き残った者が報酬を得る。
娼婦達が男達に腰を振り、快楽の代わりに金を受け取る。
自分は――後者だった。けれど、望まぬ快楽を受け入れたくないがあまりに客人の裕福そうな醜悪な男を蹴飛ばしたせいなのか、自分はまた別の場所に売り飛ばされる羽目になった。

――そして、今に至る。
「…死にたくない、」
どうして自分や彼等はこんな目に遭わなければならないのだろうか?生きる理由に値段等必要ないのに…。
「…死にくない、のに……」
自分は、ただ冷たい雪の中に放り出されて、死を待つだけ。
――何で?
――私が、何かしたの?
――これが、罰なのだとしたら。私が何を犯したの?
それでも神は答えてくれない。目を閉じようと、した瞬間だった。
「ぐるる…」
小さく、か弱き虎が自分の頬を舐めた。ふと、横を見てみると…嗚呼、承認が必死の抵抗をしたのか…母親らしき大型の獣が、腹から血を流していた。必死に子を守ろうしたのか、数匹の小さな虎が母親に縋っている。
――けれども、だとしても。
「――生きて、良いんだ。お前は…」
自分は立ち上がる。虎を優しく撫で上げて…衰弱しつつある母親の虎から数匹の虎を持ち上げる。

「お前たちは、生きて良いんだよ」


少し、居眠りをしていた。…ふと、思い出せば血の滲む様な努力で獅子騎士団に入団する事が出来た。しかしかなり激務を熟したせいなのか、長い間居眠りしていたのだろう。自分は浮いた存在だと騎士団の中で噂になっていたと言われている。
曰く、数匹の獣を連れている変わり者の騎士が居ると。
曰く、優秀過ぎる騎士が居ると。

…でも、本当はこの子等に居場所を与えてやりたかった。

ふと、思い返せば名も知らぬ母が歌った子守歌を歌っていた。
――それが、本当になかなか忘れられない子守歌だった。


貴方が痛むのならば、私は救おう。
貴方が苦しむのならば、私は癒そう。
私は貴方の為の花になる。

白夜が貴方を癒すまでは。






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