この世に生まれたからにはひとしく罰を受けろ






「ふむ、ナホビノよ――我に何用か?」
髑髏に蛇が蜷局を巻くように絡みつく姿をした邪鬼は、ついさっきお世話になったナホビノが再びやって来た事に首を傾げた。その上、見知らぬ大天使(アブディエルやメルキセデクと言ったベテルを取り仕切ってる大天使)まで連れて来ている――反魂香を持って来たと言う訳ではないのだろう。

「…少し、宜しいのですが。この場所に漂っている者達の魂を顕現させる方法はありますか?」
「出来るには出来る…のだが、大天使にも大事な存在を蘇らせたい情でもあるのか?」
「――いいえ、違います。もっとも、野暮用の事でありますが」


彼等のやり取りに、ナホビノは少し悪寒を感じた。
確かに、アブディエルならイチロウを秩序ある存在だとしても大事にしている一面がある――ただ、カマエルとの戦いを得、メルキセデクの真意に半ば気付いているのなら恐らく『大事な存在を蘇らせたい』なんていう生々しい感情をこの大天使は持ち合わせていないだろう。あのアサクサの惨劇を起こした張本人そのものなのだから――嫌な予感がするのと同時に、張り詰めた空気に気付いたのかジャックフロストが「どうしたんだホー?」と見合わせた。
「そうですね――誰でも良いので、この地に漂っているマガツヒを集め、この地に呼び覚まして下さい」
「ふむ…可笑しな頼みをする大天使も居るものだ。その上ナホビノの頼みとあらば、仕方がない…」
ロアは自分を見合わせ、この訳の分からない頼みをする大天使に合わせないと――何をされるのか分からないのだろう(戦いでは十分に戦力になるのだが、何を考えているのか分からないこの大天使に合わせないと何をされるのか予測もつかない)


帰魂の香の性質を逆利用させ、この地にこびり付いた魂を顕現させる――そうして、彼等の前に現れたのは、人間とも人形とも呼べるような存在であった。手足は半分もがれながらも、だらりと流血した血が手から流れ出ている。だらりと口を開けており、まるで宛らホラー映画に出てくるゾンビのようだ…と思った。その存在は大天使の姿を見、憎悪とも呼べるような叫びをする。

「ねえ…あんた、あの女の配下ね?」

――分からない事があった。デメテルがバアルやモロクを指していた『牛神』が何の意味を指していたのかを。牛神が生贄を捧げる者達を意味していた事なのは確かだった。だが、デメテルが牛神がもっと別の意味を指していた事を、敢えて隠していたのを。

「――返し、返して!返してよ!あたしたちの町、あたしたちの大事な場所、あたしたちの――長を!」

嫌な予感という物は、時に当たるものだ。虐殺が起きたこの場所、大量のマガツカが眠る地、蹂躙され、未だに鎮まる事が出来ない魂、そして、牛神の本当の意味――。

「何であんたみたいな存在が、あたしたちを虐げるの!?悪魔より、よっぽどひどい存在だわ!皆、皆死んでいった――あんた達が指揮していた天使達に!」

悪魔も、自分を騙したり自分に襲い掛かる者もいる。けれど、天使も悪魔と同じ存在なのではないのか?と徐々に気付き始める。だったら――だったら、何故この成仏出来ぬ魂は彼に罵言を叩き付けるのかを――。

「ええ、それは分かっていますよ。全部、私達が無に帰しましたから」

それでも、彼は否定もせずに、ただただ肯定するだけ。そして、その成仏出来ぬ可哀想な魂の、穢れた手を掴んだ。

「――ただ、過ぎ去った事を嘆いても、悔やんでも、何も変わらないだけです」

そして――その手が、急激な炎に包み込まれた。




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