愛も憎悪も白い皿の上






「――これ、は…」
二人が見たのは、夥しい女性の死体でした。誰も彼も、内臓を抜き取られ――それをごっそりと喰われている…彼女は吐き気を催すような感情を抑え、先ずは次なる被害者が出ないように、犯人――いや、鬼を殺しに行く事に決めました。


記憶が朧気だったのは、何時だったのか。
生物の解剖や生け捕りが趣味と言うだけで気味悪がった村の連中は挙って自分を腫れ者扱いし、山外れの小屋に追い遣った。自分はただ小屋に引きこもり、木こりとして売り買いをしながらも貧しい日々を送っていた…そんな矢先の事だったか、興味深くこの場所を知った村の娘は、自分の趣味に凄いと興味を持ってくれた。其れが嬉しかったのか、その娘を毎日のようにこの場所に連れ出した。けれど、そんな幸せな日々が終わったのはある日の事、村の娘はごめんなさい、貴方の事が嫌いだったの。と言い、逆上した自分は娘を殺してしまった。嗚呼、これは不味いと思った矢先に、とある宗教を切り売りしている者から君を此処から逃がしてあげようかと乗った矢先に――…あれ?


全部、思い出した男は、二人を見据えました。そう、彼等は鬼と化した自分を殺しに来たのです。
「……そう、それが私達の仕事。貴方を、殺しに来た」
あ、あああ…全部思い出した彼は、頭を抱えました。犯した罪と、許されぬ過ちから。だらだらと、女を喰った名残の血がだらだらと流れていたのです。男は――何もかも忘れてしまおう、殺して全て忘れてしまえと逆上し――彼女に襲い掛かりました。

けれど――。

ひゅん。

あれ?おかしいな…俺の首と胴体が真っ二つに離れている――あの男が俺を斬ったのか?一瞬、何も見えなかったぞ?俺の目がおかしいのか?ああ、でも――最後に映る風景が…彼女よりも美しい女を喰えなかったのは、残念だなあ――。


「…これで終わりましたね。冨岡さん」
男は日輪刀で、鬼を斬りました。後に村人から聞いた話だと、娘はフッた訳ではなくて――村の掟に縛られている家族にこの事がバレれば、彼は殺されてしまう。敢えて、彼の身を守る為にフッたふりをしたのだ。けれど、肝心の彼にはそれらが届かなかったのだ。もし、彼が彼女の言葉を受け入れてくれれば、こんな悲劇は起きなかっただろうに――…彼女は、継ぎ子である彼女を思い出し、やるせない表情をします。
「――ですが、こんな悲しい事件が起きない為にも、私達は鬼狩りを続けます。ですから、貴方達はどうか、私達を見守って下さい――…」
彼女はそう言って、祈る様な顔をしながらも…男と共に、山中を降りて行きました。

後に残るのは、静寂だけ。




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