飼い殺し






男は、女の美しさに見惚れていました。アンティークドールにも匹敵する美しさ、退廃と醜悪が混ざり合うアンバランスさ、陶器のような素肌と、ヴィナスの美しさを持つ体型――なんという美しい存在。嗚呼、神にもこの美しさは奪えないのだ。と言わんばかりの狂信。男は、蛹から羽化した女に勃起し、欲情し――…自慰に励んでいました。けれど、その幸福のような時間は終わりを告げるのです。

――そう、彼女の存在を嗅ぎ付けて、身柄を引き渡す者達が現れたのです。

ふざけるな彼女は渡さない彼女は僕のものだと男は喚き散らしながらも、男は彼女の手を取って――この場所から逃げ出す事に決めたのです。閉鎖的な、クソッタレで醜悪なこの村から。


「此処が彼が住んでいた小屋ですね」
彼女はそう言いながら、木製のドアをキイ、と開けます。中の部屋には虫の標本や、生物図鑑等が置かれています。男は生物に興味を持っているのでしょうか?まあ、何せ――鬼を狩る彼等にとっては関係の無い話なのですが。
「…普通の一般人、と何も変わらないと思ってるのですが、冨岡さんはどう思いますか?」
冨岡と呼ばれた男は、何も動じず――標本や生物図鑑を見ながらも、ただ行方不明になった娘達の安全の方が先だと思っていました。
すると、何処からか――醜悪で強烈な腐臭が、二人に襲い掛かって来ました。
血の臭いでしょうか。それとも――…嫌な予感を巡り、二人は臭いの元凶である奥の部屋に向かいました。ドアは木製の板で封じられており、男はドアを蹴飛ばしました。

――其処には、耐え難い光景が広がっていました。二人は、嫌悪と犯人への憎悪を濁らせた表情をしながらも、この事態を解決しなければ。と言う決意を固めたのです。


男は、女を連れて山中を走っていました。女を売り飛ばして、遊郭か遊技場に投げ出す心算なんだ。彼女は俺が幸せにするんだ。だから、あんな者達に売り渡してなるものか!と、必死でこの、穢れた、腐った、腐敗した村から逃げ出そうと思ったのです。

(俺を迫害し、よそ者扱いしたあの連中とは、違うんだ!俺が、彼女を幸せにするんだ!)

男はそう思い、もう直ぐ村から出られる――そう思った矢先の事でした。

「こんばんわ、こんな場所で何をしているのですか?」

若い女性――少女に近い声をした、鬼狩りの姿をした二人の男女が、此方に声をかけていたのです。
「お、俺は――彼女を連れて、山中を出る心算だ」
「そうなのですか、私には彼女――生きている者とは思えません」
なん、で。と振り返った矢先に――彼女の姿を、再び見据えたら…彼女は、事切れていました。そう、蠅が多寡っている…腐乱死体になっていたのです。

「――貴方ですね、娘達を殺した犯人は」

牢獄から、逃げる事が出来ないまま――男は、死刑執行者にも等しい女の声を、ずるずると耳に残ったまま、項垂れました。




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