恋心だけ世界に残して






葦の国の者達は、血生臭い。
文化的断絶を起こし、誰しもが疑心暗鬼に陥り――隣人を疑い、殺し、内乱や内戦が勃発する。故に、他者を疑い続け他者を切り捨て続けたこの国の者は、血に酔いしれ――他者を切り捨てる狂気を欲する。
そうして、自分はこの国に失望し――半ば見捨てる形で国から出て行った。

色々な国を旅して、彼等のあるべき形を見て来た。
騎士は、主に仕える存在である。誰かを守る存在。何かの為に戦う存在。

――ただ、本当は…逃げたかったのかもしれない。
自分の行いが異端である故に、彼等に拒絶させられるのが一番怖かったのだ。


獣のように血に飢えた騎士が、男の腹を曲剣で貫いていた。
「が、は…」
男は血を吐き、どさり。と倒れた。

「なん、で」
叶えたい願いが、叶えられなかった――この世界では、当たり前なのだろう。と誰かが言う。彼女と傍に居てやれる事さえ、許されないのか。
ぐるる、と騎士が獣のようなうねり声をあげ――曲剣を自分に向ける。ああ、そうか――自分は、本当は…この世界が、嫌いだったのかもしれない。

そう考えている内に、騎士を脚で蹴飛ばしていた。


騎士は蹴飛ばされた衝撃でよろけたが、態勢を足のつま先で整える。何だ獣の癖にやるじゃないか――と思えるが、とっさに騎士の鎧を鷲掴みにして、壁に叩き付ける。

他者を不用意に斬る事は好きじゃない。けれど、ぴくり。と動く事すらままならない騎士の首筋に刀を突きつけ――ぐしゃり。と嫌な音がする。静かに…首を切り落とした。



「――おい、しっかりしろ!」
彼方此方に血だまりが出来ている。出血多量が酷い。出来るなら僧が居る場所に駆け付けたい――問題が、彼等がこの異形を診てくれるか。どうかである。
「…まだ、間に合うかもしれない」
今なら、助けられるのかも。そんな細やかな願いがあって欲しい。
けれど…それすらも、許されないのだとしたら。
男は――冷たくなっていく手から何かを差し出す。
「これを…」
――それは、彼が。彼女の為に作った…手作りと思われるペンダントであった。それを、部外者である自分に手渡す。
「彼女に…」
――そうして、彼は動かなくなった。
自分はただ、項垂れたままだった。




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