暗喩に隠された思慕






「……っ!?」

後ろを振り返れば――『異形』と言いようがない存在が後ろに居る。それを象徴するツノ、爛れた顔、巨体と、棍棒…。
自分はその異形の存在が振り下ろした棍棒の一撃に咄嗟によけたものの、異形はこちらに対して殺意を向けている。
果たして、何が彼を殺意に駆り立てているのか――だが、さっきの落下で身体はよろけている上に、未だに眩暈もする。
…此処は、逃げるしかないだろう。だが、逃げ場所が無い――出口が見つかるとは到底思えない。その上、敵が此処を見つける可能性もあり得るのかもしれない。
「お前―――」
その異形の存在は、どうやら珍しく言葉を発するらしい。
「彼女に、触るな」
彼女?と自分がふと後ろを振り返ると、その彼女――人形の姿。若しかして、歌を謳う人形の事を言っているのだろうか?
けれど、この明らかなる殺意は―――否定する事が出来ない。
それは、嘗ての自分への…暗黒面でもあるのだから。
「もしかして、喋れるのか?だったら――話を、聞いて欲しい」
もし、話せるとしたら敵意は無い。とだけ言っておきたい。そうすれば…分かり合えるのかもしれない。と言う浅はかな願いが、自分の中に渦巻いているのかもしれない。それは、消し去りたい過去の残響であると言うのに。
「私は彼女を害する事はしな――」
それを発する、瞬間の事であった。

――甲冑を纏った騎士が、此方に襲い掛かって来た。どうやらその異形をも狙っているらしく、異形に向かって剣を振り下ろしてきた。
…面倒臭いな!
それはそうだ。この噂の墓場にやってきた瞬間に落下した上に異形の存在に襲われるわこの甲冑を纏った騎士に襲われるわで踏んだり蹴ったりと言うべきだろう。剣技はとても素早い――が、この程度見切れるだろう。しかし、騎士の剣が人形に当たりそうになり――その瞬間。

「…どう、して」
異形が、彼女の身を挺して庇ったのだ。

異形が咆哮を上げ、騎士を棍棒で殴り上げ、踏みつぶすように殴り続けていた。騎士が動かなくなるまで、殴り続け…。


「――私は、敵じゃない。それだけを、覚えてくれないか」
騎士を潰し終わった異形に、話しかける。
「それだったら少し…教えてくれないか?お前の事を」
少しでも、彼の事を知る為に――そして、この根も葉も無い噂の真相を知る為に。

異形の存在は、敵ではない事を理解したのか…自分と人形の事を語り始める。

…それは、一筋の恋物語でもあった。




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