月欠けのバラッド






――歌が、聞こえる。優しい歌が。
――優しい歌は、嘗ての小夜啼鳥の伝承の様に、柔らかに響く。

置き忘れた罪、受け入れられぬ罰。
それを受け入れられずに居た自分の―――心の弱さ
全てが、許されるような気がして…。
それでも私は、貴方を愛していた。

それなのに。


「………うっ」
どれ程落ちたのだろうか。あの高さなら、落下死は免れないと思ったが……どうやら幸にも不幸にも、死体がクッションとなって助かったのだろう。

――優しい歌が聞こえる。

さっきあの男が言っていた「殺された歌姫の亡霊」と言うのが、本当の事だったのだろう。だが、不確かにもそれはぎこちない響きだ。それはそうと、
「…死体で命取りになるとは、聞いてないぞ…」
葦の国は死生価がまともじゃないとよく言われる。それはそうだ――狂気に苛まれる者達の国と侮辱される事もあるから。
だから、自分はまともじゃないと言うのを選ぶ方が楽だ。…なんて思っていたが、死を覚悟するのも、それも又自分らしからぬ。

歌が聞こえる方向に歩く。念のため、移動する度に足場をつついて確認する――さっきの足場が崩れる可能性もあるかもしれないのだから。
漸く辿り着いた場所に居たのは―――予想だもしない『存在』だった。

「…人形?」

作られた存在、人形。球体関節が見え隠れしているが、夜のヴェールを模したドレスが美しい。プラチナブロンドの長髪が映え…それは、一種の美を感じる存在でもあった。彼女が、この「歌姫」なのだろうか。
「どうして、こんなところに…」
自分が確認の為に歌姫を触ろうとした、その瞬間――。

――不意に、大きな殺気が後ろから込め始めていた。 




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