樹液の住む咽喉
「あらまあ将司、元気になって…」
「大丈夫だよ母さん、俺は建設企業で鍛えたから何とか母さんのお世話をする事が出来るよ。母さんも父さんも、もう年だから無理をしないで」
「お前も、無理をするんじゃあないぞ。建設場所で現場工事を指揮していると聞いたから、お前に何かあったら俺は…」
老夫婦は、息子と駄弁っている。畳の上に卓袱台。卓袱台の上に緑茶が入った湯呑。何も問題はない筈だ。ない筈、なのに…何かがおかしい。庭には、一本の桜が咲いている。老夫婦が埋めた桜の種が、育ったものだ。
――その日、月が妖しく輝いていた。
「神隠し?」
伏黒はコーヒーメーカーにコーヒーを淹れながら、担任教師である五条悟の方に目を向ける。
「――そ、西東京のとある一軒家で、人がとある老夫婦と接触を果たした途端に次々と姿を消していると言う情報が入った」
五条の言い分だとこうだ。その一軒家にはとある老夫婦が住んでいる。仲睦まじい夫婦であり、近所の人からの話によると息子が居て、その息子自慢が大層であったと言う事。しかし、ある日を境にその老夫婦のお世話になった者達が次々と姿を消していった。これをおかしいと思った者達は警察に相談したが、現場捜索をしたところ――何も証拠も見つからなかったと言う。しかし、微かな呪力を感じた高専は…その依頼を五条悟に秘かに依頼したのだ。
「五条先生に秘かに依頼をするって――絶対ただ事じゃないでしょそれ」
「ま、概ね大正解。それと同時に、あるものが盗み出された」
「あるもの――呪具ですか?」
「ピンポーン。しかしね、僕あまりこういう依頼をやりたくないんだ。だってね、こういうのは君が対処するべきでしょう?」
「(はあ、またか…)」
面倒事を自分に押し付ける癖を見て、伏黒は溜息をついた。まあ、彼の力はとんでもない処か一瞬で物事が全て終わってしまうから、ある意味自分に押し付けるのも無理は無いだろう。いや、甘いものを食べる暇があるなら仕事をし――まあ、他の教師よりはマシな方だと思えるのだが。真希先輩が見たら「はあ、又この手の案件かよ…」と愚痴りそうだが。
「――んで、その呪具ってなんですか?」
「おお、いいタイミングで言ってくれたよ伏黒君」
軽い調子は崩さないスタンスだ。その呪具とは一体、何なのだろう。
「それはね――…」