火葬場






「ええ、そうですとも。貴方方の街を、同胞を、等しく皆殺しにしたのは私ですから」

その手が、煉獄に近い炎によって燃える。彼女は、ただ叫び声を上げるだけだ。

「――けれど、あれは私達が生き残る為の最善策でした。我らの存在を等しく否定する理想に何も意味がありません」

天使は、皆聖人ぶる。だから気に入らないのだと何処かの魔王が言っていた気がする。虐殺を、正当化する――それが、常人離れした存在である事の発言である事は間違いない。

「――私を殺そうと、未だに成仏出来ないのでしょう?しかし、絶対なる存在を否定し――私を攻撃しようとするのは、哀れだ。いっその事、楽にして上げましょう」

ぱちぱちと、火が燃える音がする。亡霊は絶望の淵に追い込まれ、唸り声――彼の大天使に怨嗟の声を上げながら姿を保つ事が出来ず、マガツヒとなって再び散る。
其の一幕を見る事しか出来ない自分と、自分の足に隠れて怯えているジャックフロストを見つめ、ウリエルは「終わりました」と声音が普段のトーンとなる。
「これはこれは…未だにこの地に留まり、成仏出来ない亡霊を何も迷いもなく抹殺するとは――大天使と言った処か」
ロアは、そう評価するも、何処か不満げな顔だ。彼等に自分たちを支配するつもりであるのならば、何も迷いもなく自分達を滅するだろう。そんな風に言いたそうな顔だ。自分は、ウリエルに駆け寄る。

「――ねえ、ウリエル。記憶、戻ったの?」
「ええ、今の哀れな亡霊の罵声で一部、戻りました」
「――君の仕えていた、主って…」
「さあ?今の主は貴方です。もう過ぎた事です。答える事は無いでしょうから」
「――君は、君を殺した悪魔を、知っているんだよね?じゃあ――」
「――さあ、先へ進みましょう。ナホビノよ。今は無駄話をしている場合じゃありませんから」

そんな質素に、簡単なやり取りをしてから、ナホビノは諦めて神殿へと向かう事に決め、ジャックフロストは「待ってホ〜」と彼とウリエルを追いかける様な仕草で走って行った。

残されたロアは、燃えカスとなった亡霊が居た場所を見る。
「――成程、あの天使にとって至純とも思える記憶と、思い出したくもない記憶が蘇ったか。敢えて、過去の亡霊を断ち切る事で、より一層、理想へと至る事が出来る、か…」
やはり、天使という物はロクでもない存在だ。この地を血塗られた惨劇へと塗り替えた存在なら、より一層警戒しなくてはならない。
――そして、何よりもこの地に居座り続けているシヴァも又、宇宙の破壊に至るのだろう。例えば、絶対なる天使達が支配する世界であろうとも、多神の者達が支配する世界であろうと、もだ。
その輪廻の先に、彼等は何を見るのだろうか。

今は未だ、知る由もない話なのだが。




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