幸福に死する夢を

全て忘れてしまえばいいのに。
そうして、忘れる事が出来ない思い出を抱えながら、生きていく。


これは現実だ。あの事件の後――ファルマの事を忘れようとした。ケイオンから「ターンは何やってんの!」と怒りながらこぼれたコーヒーを拭き取り、ソファのシーツを替えながら別の部屋に行った。デルファイのウィルスパニックで、ファルマの連絡がつかないと言う情報が入った。ああ、死んだのだろうか。そう思いながらも、報告書を読み取った。

けれど、忘れようとしても―――あの悲しそうな表情が忘れられなかった。処刑人である自分を憎悪していた筈のファルマは、とても悲しくて、今でも壊れそうな形をしていた。
『なあ、ターン』
『……どうかしたのか、ドクター』
『忘れる、っていったい、何なんだろうな』
『……さあ』
ファルマは諦め切った顔をして、自分に振り向いた。

『忘れろ、なんて誰かの言葉からしたら悪い言葉に思えるけど、私は違うと思う。また、壊れるのなら――繋ぎ止めればいい。誰かの手を握ってくれれば、私はそれで良いと思うんだ』

あの時の言葉の返しが、分からなかった。何を返すべきか、分からなかった。そのまま、ファルマは消えた。白い雪の中に消え、何処かに葬り去られてしまった。
(―――けれど、忘れる事なんかできないと思うのは、傲慢か?)
また、会える――そんな風に思えてきた。けれど、そんな事すらも、出来ないように思えてきた。
「―――忘れ去られたら、どんなに楽か。それは、私が十分に、身をもって思える事実だ」
メガトロンがオートボットに入った情報を見て、ため息をつきながらも、口喧しく自分の部屋に入ってきた看護医を担当しているニッケルを見つめていた。



貴方は誰?何も分からない。私は誰?何も分からない。けれど、誰かを愛していた。誰かと家族として暮らしていた――誰かを、悲しませ、不幸にさせた。分からないし、全てを忘れ去られたい。何も、忘れてしまいたい。けれど、貴方に会いたくて。それでも、貴方に会いたい――けれど、一つ、思い出さなければいけないような、そんな気がして。

神様であるのか、それとも私であるのか、分からない。けれど、繋ぎ止める鎖が欲しい。

『貴方』に会いたい。

(それは夢でいい。夢に夢見れる瞬間は確かに幸福なのだから)




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