微笑みと薬莢は横たわって

その手を、離してはいけない。
決して、夢から覚めてはいけないよ。


あの時の言葉の答えが聞きたい。自分には関係ない事だと思い乍らも、ファルマが居る医務室に入った。カウチで横になっている彼女の表情は、とても辛そうだ。仕事の激務、コグの手配、自分との会話。そうやって疲れが溜まり、カウチで眠っているのであれば、起こさない方が良いのかもしれない。ファルマの横に座り、頭を撫でる。そうして思い出させるのはあの時の言葉だった。

『ひとりになるのが、怖いんだ――何も、感じられなくなるのが、怖いんだ』

自分とのやり取りでエスカレートしていく狂気、壊されていく精神。必死の心境とも言えるあの言葉は、とても正気でないと叫ぶ事が出来ない言葉であり、叫びだったのかもしれない。
だから、自分は一人ではない。そう思える行動は、偽善か、それとも。けれども、頭を撫でて、少しでも安らぎを与えれれば――それでも、この行動は偽善だとしか思えなかった。自分も、ファルマも決して救われない存在だ。何も、救われるべきではない。自分も、ファルマも、何かに怯えており、何かに逃げている。
「私は、お前が怖い」
決して聞き届くことのない願いを、彼女に告げる。ああ、そうやって願いが、叶うのならば、この世界が続けばいい。そう願いたいのに。
「だが、貴方と私が居るこの部屋は、とても心地が悪くない。すべてを放棄して、叶うのならばこの彩のある世界を見たい」
「けれど、全て忘れてしまいたい。それが、自分が苛まれる狂気だとしても、構わない」
眠っている彼女に対し、その言葉を告げる。忘れて、自分とファルマ、共に歩む道を見いだせたのならば?けれど、それすらも許されなかった。きっと、この日々も終わる。そんな予感がしていたのだ。

『けれど、いっそ楽になれたなら――そう思えてしまえば、いいのに』

自分がファルマを楽にしたら、ファルマは喜ぶだろうか。恐らくは、喜ばないのかもしれない。

ラチェットに対する思いがあるから、死ねないだろうと。そう思える自分が、笑えるように滑稽だった。




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