廃墟に置き去られた約束と

愛しい思い出も、辛い現実も、全部、記憶の海に忘却したら、全て楽になれる。
そんな現実を、私は辛く受け入れたくない事を知っている。だから、薬を打つように人を殺め、私は生きている。誰でも受け入れたくない現実を、私は知っているのだから。ララバイなんて、謳いたくないから、私は此処に居る。もし私が、彼を受け入れたらこの現実も、忘れられたのだろうか。鳥は歌う、辛い現実を。


「お前の髪は綺麗だな」
透き通るような赤い髪、純粋な赤い髪に、白いメッシュの髪が入り混じる。嘗てラチェットにそう誉められ、とても嬉しかった。けれど、今はもう、遠い遠い思い出のように思えてきた。
「貴方の髪は、とても綺麗だ」
手袋をした手で、静かに髪をなぞる。その髪のなぞり方が、とても嫌だった。妙に優しく、なぞる感覚が気味悪そうに思える。目の前に居る仮面の男は、まるで自分が優位だと思えるように、自分の髪をなぞる。
「…もういいだろう」
自分はそう言いながら、男の手を掴み、そして下ろした。デルファイから来た時から、いつもこんなやり取りが繰り返される。ディセプティコンの処刑人であるターンと、デルファイのCMOである自分。メッサティーンに居るDJDと、デルファイとの長らく続いている関係。コグの引き渡しと、人を殺める自分と、殺す事に何も躊躇いを感じない、彼。だから、そうやってこんな不毛な会話を続ける。続けなければ、殺されるから。この関係が、身体や暴力を強いられているのだからこそ、成り立っているのだと思える。
「おや、これは失礼した」
ターンはそう言い、掌を返しながら、自分の手を取る。
「貴方が、契約を守る限りは――デルファイの安全を保障する。もし、契約を破るような形をとれば――分かっているね?」
分かっている。と自分はそう言いながら、手を振り払った。自分はこの男が嫌に感じると思いながらも、コグを引き渡す。
ターンは、コグが入っているトランクを見て、異常が無いか確認した。確かに異常が無い――ターンは「確かに異常も、数も足りない訳ではない」と言った。

「…いい子だ、貴方は、とてもやさしい医者だ」

そして自分の頭を撫でた。優しい医者でもない。ただの、最低な人殺しだと思えてしまうのは、何故だろうか。それでも、彼は自分の行いを肯定した。それが、自分に対してのご褒美だと思うのだろうか。
彼がそうして部屋から去った後、一人取り残された自分は、ただポロポロと、涙を流した。
「うう…うあああああん…ああああん…」
声を出して、涙を流す。何時か、この事がラチェットやファーストエイド、アンブロン達に知られるのが怖い。でも、どうして自分だけ、こんな仕打ちをされなきゃいけないのだろうか。とても、辛いのだ。自分自身が、否定されるのが――とても、辛いのだ。

きっと、彼らは自分を、許さないのだから。




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