「わたしを、えらんで」

「あなたを、永遠に忘れたくなかった。それがどんな終わりになろうとも、貴方の姿を、悲しみを、苦しみを忘れたくなかった。それなのに、何も得られるものなんてなかった」

それは誰の声だろう。私には分からない。私には会いたい人が居る。それはとても大切で、とても愛おしくて。他に何もいらない。それなのに、とても、悲しくて、苦しくて。泣きそうな声で、誰かはそう言った。
でも、私は神様なのに、どうしてお前は、悲しそうな声で言うのだろうか。何も成し遂げなかった。それが、とても悲しい事なのだろうか。けれど、私には凄く、心にチクリと刺さってしまう、鋭くて、鋭利な言葉だった。

春の土、燃ゆる草木 夏の風、二人笑い

最初に触れられた温かい、先生の手。家族が出来て、初めて、嬉しいと感じた。けれど、それらは全部、壊れていくし、すり抜けていった。彼は醜い存在だ。誰も、手を貸してくれないし、美しい物ばかり手に取っていく。それが、辛いのだ。自分は、最初から要らない存在だったんだ。と彼は悲しく笑う。なのに、違うんだ。と私は言う。

「けれど、私には貴方がとても、愛おしそうに見えた。貴方の手は、昔失った色を思い出させたのかもしれない。なのに、種を撒いても、咲くのは青い花」

秋の夜に、やがて目覚め 冬の雪、夢と知る

けれど、私はその誰かの手を取った。その手を、強く握り返した。
「違うんだ…。違うんだ。そうじゃない…そうじゃないんだ。何も、無駄だったんじゃない。何も、成し遂げていないんじゃないんだ。自分は要らない存在なんだ。なんて言わないでくれ…そうじゃないと、私も、辛いんだ」
だって、美しいものばかりしか生きられなくて、醜いものは生きられない世界だからって、諦めているように思えてしまうのは、怖いんだろう?誰も、自分を見向いてくれない。自分は、死んだ方が良い存在なんだ。それは、違うように見えたのだ。
「違う…違うんだ!」
私は、ポロポロと、涙を流した。その涙は、宝石のように思えて、鮮やかな色をしていた。

「――お前と、出会えて良かった」

私は、ひとつだけ思い出したのだ。その、始まりとなって、辛い物語を始めたきっかけの名前を。けれど、私は辛くても、悲しくても。貴方の名前を憶えていたい。戒めじゃなくて、ひとつの思い出として彼を忘れたくない。

「醜くたって良い。誰かから嫌われたって、恨まれたって良いんだ。私が、お前を憶えている。けれど、」
その先が、強張って、涙があふれ出して言えなかった。けれど、彼は私の手を取る。そして、祈るような顔をした。

「有難う、私の事を思い出してくれて、」
「私は、幸せ者だ」



私が目を覚ました時は、何も覚えていませんでした。長い夢を見ていたのでしょうか。けれど、掌に小さな薄紅の花弁を握っていたのは、何故でしょう。けれど、とても、悲しくて、辛くて。まるで、淡い夢の様でした。
けれど、私は何かの小さな、子守歌のような歌を口遊みました。それは、誰かの為に歌っているように思えて来て、

私は、小さな祈りを込めました。
幸せな夢を見れますように、と。


(一部歌詞:Linaria-ク/ロ/ウ/カ/シ/ス)




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