カルドゥスの仮面

初めてあったその男は、どうしようもない嫌悪感になるのも無理はなかった。その男は、かの破壊大帝メガトロンを模範したボディをしていた。違う、あの男ではない――一瞬、姿からして、生死不明となったあのオライオンの親友と悟ってしまったか…違う、あいつじゃない。そう、まるでドッペルゲンガーを見ているような錯覚に陥ってしまったのだから。

デルファイのCMOに就任して日が経っての事だった。かのオートボットとディセプティコンの戦争の爪痕がまだ残っているこの星で、悪名高き、拷問も虐殺も躊躇う事は辞さない処刑部隊であるDJDの長とのターンの交渉。それはTコグを交渉の道具として、自らに渡すようにと。甘い言葉で囁くが、結果的に卑劣な交渉だと分かってしまったのだ。もし反抗したりノルマを達成出来なかったら――自分も彼等もDJDの殺戮対象になってしまうのだから。だが、ファルマにはターンの意図が、偶然分かってしまった時があった。


「もし貴方が、私と同じように尊敬に値する師匠を殺すとしたら、どう思いますかね、ドクター」

メスの手入れが終わった後、仮面の男は自分にそう告げた。尊敬に値する師匠を殺す。確かに――もう後戻り出来ない道を歩む自分を、師であるラチェットは、自分を殺すのだろうか。仮面の男は、師であるとある男についての話をした。話は単純なものだった。アカデミーの話や、メガトロンについての話、そしてオプティマスや戦争についての話をしていた。それ故に、自分はラチェットを尊敬していると同時に――憎悪に近い何かを抱いていたのだ。自分は仮面の男を睨む――が、何も反論しなかった。同族嫌悪、だからこそ――この男も、自分も――結局は同じじゃないか。と自分で自分のプライドを傷付けながら思った。
「それなら、お前の正体があいつだと信じてた事があったよ」「ほう、ドクターの意見がどのような物なのか、お聞きしたい事ですな」
「答えは明白だ――お前を、オライオン・パックスの相棒――ローラーだと信じていた事があった」
それは興味深い考えだ。とターンは言葉を返す。
「変形依存症――何らかの依存を患っている。データベースからシャドウプレイと言う人道に反する技術のケース、姿とオルトモード…それらが偶然一致している、そして――『正義』。あいつとターンは、同じではないか。と考えていたが…結果は不正解だった」
いや、結果的に不正解で――正解だった。自分も――『この男』も、同じ同族嫌悪であり、似た者同士だったからだ。師匠に対する未練と、それが報われない歯がゆさと、思いに対する報われなさと――そして、苛立ちに対する冷酷さと。
「貴方は、確信を鋭く突いた。だが、不正解だった。貴方は立派な医者であり、親愛なる貴方の師であるラチェットの将来を期待する――」
「――お前如きがラチェットの事を、軽々しく口にするな」
おっと、これは失礼。とターンは礼儀正しそうに口にする。だが、彼の見解も悪くはないだろうか。と何処かで期待してしまう自分が居た。

後は地獄へ転がり落ちていくだけ。ただ、それだけの事だった。この男は、あいつではない。あいつではないからこそ、自分もこの男もお互いを同族嫌悪しているだろう。
それはきっと報われないからこそ、最悪の結末へと向かうだろう。そう、互いに。


(あなたは、だあれ?)

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