カルドゥスの蝶葬

ある日の事だ。その男と初めて出会ったのは。ラチェット曰く、ロディオン警察署長のオライオン・パックスの同僚らしいが、第一印象は「ガラの悪い男」だった。


「また議員絡みの暴動事件を鎮圧したが、腕にダメージを追う怪我を負った。お前の手伝いが必要な時は私が合図で通信を送る。その間に受付で待ってろ」
と言うラチェットの言葉に静かに頷き、受付付近で一人佇んでいたが、ロディオン警察の同僚達がオライオンの怪我を聞き、駆けつけてきたらしい。看護師達が「患者達の迷惑になるから落ち着いて下さい!」と宥めているが、あのオライオン・パックスが怪我となると聞くと落ち着いてはいられないだろう。幾ら何でもたかがケガだ。落ち着いて欲しいと言うのもあるが。すると、その警察の同僚を大型機の男が宥めている様子が見えた。どうやら彼らを落ち着かせる実力を持つと言う事は、相当の身分が高いと言う事だろう。
すると、ファルマの目の前にその男はぬっと現れ、オライオンについての居場所を自分に問いかけてきた。
「で、オライオンは今何処に居る?怪我をしたと聞いたが」
「オライオンは、今ラチェットの治療を受けている。知り合いか?」「まあ、知り合いと言うか、同僚だ」
同僚。つまり、オライオンの同僚と言う事は親友と言う訳か。とファルマは勝手に認識した。するとその男はファルマに問い質した。
「で、ここの自販機に売ってるか?」「何を」「クレムジーク印のドリンク」
そう言えばラチェットから愚痴を聞かされた事がある。「オライオンの同僚にジュースが好きで好きでたまらない程に呆れるほどに依存症気味の男が居る」と。こいつか、ああ。とファルマは心の中でまた納得した。何だ、つまりはこの男が噂の。

「ラチェットの弟子なんだろう?話はオライオンから聞いているぜ」「で、態々何の用だ。暇だったからやって来ました〜なんて言ったら怒るからな」
「いんや、重傷だったと言うから駆けつけに来ただけだ」
「…そうか、オライオンを心配してくれたんだな。その度胸だけは誉めてやろう。だが、迷惑な同僚を連れてくるのはやめろ。こっちにも迷惑がかかる」「ははは、考えておく」
長い沈黙の間、ファルマは彼に問いただした。
「…それで、お前は時折複雑な表情を見せるな」「…何がだ?」「…オライオンを見る目が、な」
まるで自分のようだ。と心の中で嘯いた。ファルマは男に何かもう一つ話をしようと思ったが、その途端にラチェットの通信が入った。
「悪いな、邪魔をして…こんな暇話をして悪かったな。で、お前の名前は」
「…ファルマだ、では、こっちも問おう。お前の名前は?」

「――ローラー、ローラーだ」

「ローラー、か」
まあ、確かに彼の親友らしいな。その伸び伸びとした態度は。とポツリと独り言をつぶやきながらメンテナンスルームへの道程を急いだ。

その後、大戦が起きた後――ローラーはある事件に巻き込まれて生死不明になったと言う情報が入った。その後、彼の姿を見る事はそれっきりなかった。


(それから、そして、あれから)

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