それは君の為の物語であり、

「僕はファルマ先生を救う事が出来たんでしょうか」
あの一件以来、ロストライトはゲッタウェイやアトマイザーの反乱、スターセイバーによるクルー虐殺が収まった後、ファーストエイドはひとりぼやいていた。ドリフトは彼の話をおとなしく聞いていた。ファルマについては、あまりドリフトは詳しく知らない。確かだったのは、ラチェットの弟子だった事と、DJDに利用されていた事と――ティレストに加わっていた事。そしてアンブロンを殺害した張本人である事だ。
「僕や…アンブロン先生と違って、ファルマ先生…ファルマは、僕達を守ろうとして、DJDと取引をしてでも…患者に、手を下して僕達を守ろうとしていた。だけど、僕は――そんな彼の苦しみに気付く事が出来なかったんだ。だって、彼は…医者だったから、一人でも、人の命を守ろうとしたラチェット先生の教えを守り抜いて…でも、でも…僕達に助けを求めても、良かったんだ。そうしたら、あんな事には――」
ドリフトには、そんな事が出来るはずが無い。とディセプティコンに居た当時からの経験故か――賛同する事が出来なかった。助けを求めても…相手があの虐殺と、拷問に美学を求めるDJDだ。オートボットで、非力な医者である彼等には、到底勝ち目が無かった。助けを出しても、出せなかったのだ。医者である彼等と、殲滅戦を得意とする彼等。戦力差が違い過ぎる。
「僕は――誰も救えなかったんだ。だけど…そんなファルマ先生は、僕らを守ってくれたんだ」
アンブロン、トレイルブレイカー、そして――プロテクトボットの仲間達。ドリフトは、ファーストエイドに何かを言う事が、出来なかった。
もし、自分がファルマだったとしたら、彼に何て言葉をかけられたのだろうか?いや、自分も彼と一緒なのだろう。何かに縋り、何かから逃げようとしたのは、自分も彼も似た者同士だ。だが、ファーストエイドは、これからどうなるのだろうか。大事な仲間達や同僚を失い、絶望に打ちひしがれている。自分が声をかけても、何も彼を理解出来ても、心の傷を癒す事は出来なかった。それはロディマスや――ラチェットも理解している筈だ。


「ファルマの話が聞きたい?」
「俺はそう思ってる。アンタが大事にしていたあの弟子についての話を聞きたいんだ」
ラチェットに対してドリフトはそう問いかけた。ファルマと出会って直ぐにデルファイのウィルスパニック事件の事もあってか、あまり彼について知らない。冷酷で自分に冷たい態度がやや見られたが(恐らくDJDの一件もあるだろうからか)、ラチェットの弟子について詳しく聞きたかった。そうしないと、ファルマがただの狂人ではないと証明出来なくなってしまう――彼の眼は、昔の自分そっくりだったからか?それとも…。
「…お前さんのその口ぶりからすると、ファーストエイドが、仲間や同僚を救えなかったと落ち込んでいるからか、誰も救える事が出来なかったか――」
「別にいいだろ、俺もあまりファルマについて知らないんだ。いいから話をさせてくれ」「あまりせっかちだな。後で文句を言っても知らんぞ。私はこう見えても厳しいからな」
わかってるよ、ラチェット。とドリフトはそう言い、話を聞く体制をした。

「…そうだな、あれは戦争が始まる前の話だったか」


(この世界に神は居ない、祈るなら悪魔に祈ろう)

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