或いは、ジェーン・ドゥに贈る空想の鎮魂歌

例えどんな状況でも死にゆく命を見つけたら救うのが医者であれ。敵味方関係無く、弱者を救うのが医者たる義務である。師であるラチェットの教えはそう簡単な、ごく普通の有り触れた話であった。オートボットで優れた医者であると評判のラチェットの弟子であるファルマから見たら、彼は立派な医者であり、弱者を救う信条を忘れないと言う存在であった。だからこそ、自分はそんな彼に惹かれたのだ。彼みたいな、誰かを助ける医者になりたいと。弱者を救う、医者になりたいと。そんなファルマにラチェットは「お前は何時か、私の跡を継いで立派な医者になれる」と言ったのだから。何時かは、彼と一緒に働けるようになりたいと。そう願ったのだ。いや、願わずにいられなかったのだ。

――【オートボット医療施設デルファイCMO・ファルマの記憶】

記憶と言うのは、ブレインとスパークに直結しているとかのインティステュート所属のある記憶外科医の見解はこうだ。
トランスフォーマーの感情や言葉を、自らのスパークが聞いたり受け止めたりすると、感動で心が震える、怒りで泣き叫びたくなる、悲しみに落ちる。スパークが抱く感情を、ブレインが忘れる事が無いと言う見解だった。だからこそ、その印象が強く残る記憶は、何時までも何時までも、怒りや悲しみ、喜びに直結しているらしい。
しかし、その記憶を壊せるとしたら?と例えた物も居る。

自らの目の前で、大事な物を取られたとしたら?目の前で、大事な存在を殺されたとしたら?目の前で――心を壊されたら?

その例えの結果は、簡単な答えだった。結果的に狂い、狂乱し、泣き叫ぶのではなく――
――人が変わってしまう。いや、外見はそのままに、人格をガラリと変えてしまう。大事な物はもうない、誰が彼を癒してくれるのか。誰が彼を救えるのか。その答えを、答えられる者は居なかった。

――或いは、ジェーン・ドゥ達に於ける鎮魂歌を。
――或いは、ファウストに於けるコーラスを。
――そして――貴方に贈る、うつくしい歌を。


(或いは、ファルマと言う簒奪者による魂の在り処への言及のバラード)

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