ジキタリス
本当は分かっていたのだ。ファーマのあの一件は、自分が何とかすべきだった。と。いつか、分かり合えるのではないのか。と信じていたかったのだ。けれど、それは出来なかった。ファーストエイドを悲しませるだけだった。そして、バンブルビーまで救えなかった。自分はそうやって、見て見ぬフリをする事しか出来ないのだ。
ショックウェーブを二度失ったオプティマスも、ファーマを手を下す事しか出来なかったファーストエイドも、自分が何とかすべきと思えなかったのだ。そうやって、自分を追い詰めている彼等を見てーー本当は苦しかったのだ。もう手の届かないところまで行ってしまうのだろうか。あの時のローラーやファーマみたいに。自分は、失ってばかりだった。友人も、大切な同僚も、手の届かないところまで行ってしまう。まるで、自分が孤独に取り残されているようでーーー。
「お前のせいじゃない」
お前が、ディセプティコンだからって責められる理由ではないんだ。ラチェットは口元を歪めてそう言った。ドリフトは、彼を見上げ――ラチェットは手元を見た。
「罪を背負ってまで、一人で出て行ってーーそうやって追い詰めて。お前が死んでしまうんじゃないか。そう思うと、私は嫌な気分になる」
あの時のファーストエイドみたいに。また誰かをひとり悲しませてしまう事は、もうごめんだ。バンブルビーまで失って、自分で誰かの為に死ぬ事は、もう二度と見たくない。
「…けれど、あの一件は――」「そうじゃない」
「私は、誰かが死ぬより、誰かが手の届かない場所に行ってしまうのが、怖い。自分が誰かを辛い思いにさせるのは、もっと怖い。そうしないと、後悔しか出来ないような者達が――居場所を作られないのだから」
バンブルビーは、メガトロンの為に死んだ。メガトロンは、悔いてオートボットで罪を償った。
「お前は、自分がディセプティコンにもオートボットにもなる事が出来ないし、誰かのようになりたいと思っているのだろう?それは、間違いじゃない――けれど、お前さんに手を差し伸べる権利も、私は持っている」
結局、誰にも手を差し伸べる事は出来なかった。彼に、手を差し伸べたら何かが変わるだろうか。それでも彼を、信じてみようと思っていたい。
誰しもが、間違いを犯す。けれど、それは間違いではない。間違った事を糾弾するのは―――正しい事だと誰かが言う。けれど、手を差し伸べ、助ける権利は自分が持っている筈だから。
「だから、私は」
お前の隣に居る。#prev - #next