追憶のロマンシア

「――怪我人は居るか!?死亡者が居るなら直ぐ様私に直接報告をするんだ!」
「――ラチェット先生、お願いです!ホットスポット達を…!」
ゲッタウェイやスターセイバーの一件の後、ロストライト号を奪還したロディマス達は直ぐ様怪我人の治療や死亡者の収容を急いだ。ドリフトはロディマスの元に向かっている最中、ファーストエイドがラチェットに何やら焦っている…いや、取り乱しながらも正気を取り戻し、叫んだ。
「――もう、誰がが死んでいく姿を見るのは、嫌なんだ…!」
…それが、ファルマとアンブロンを失って、ゲッタウェイの暴挙に耐え続けたファーストエイドの精一杯の叫びなのだろう。


ラチェットが器具の整理をしている最中…自室に佇んでいるドリフトは口を発しそうにしたが、意を決して口を開いた。ラチェットは相当疲れた顔をしている。あの多くの怪我人の治療に忙しかったのだろう。ラングの手伝いもあってか、何とか一命をとりとめたのが幸いだったか。それにしてもあのスターセイバーの攻撃を耐え続けたのが、一番の不幸中の幸いだろう。
「…大丈夫か?」
「大丈夫だ。なるべく多くの医者の命を救うのが――」
「――医者であれ、だろ?」とラチェットの言葉を、ドリフトが紡いだ。さっき、ファーストエイドと会って来た。ファーストエイドがファルマの事を言っていた。僕だったらファルマ先生を救えたのだろうか。と――ファルマの話をし終わったラチェットは、淡々と器具の整理をしていた。ドリフトは「なあ、ラチェット」と口を発した。
「――俺は、ファルマの事はあまり知らない。だけど、あんたは…ファルマを救えなかったのを、後悔してるんだろう?」
――俺だって、大事な人を救えなかったんだ。ファルマについて、俺に色々話してくれたんだから…それと、あんたは俺を救おうと、必死だったんだろう。
そう言いたげなドリフトの口ぶりに、ラチェットは口籠った。
「ファルマを救えなかった。だから、あんたは自分を責めるな――俺だって、大事な人を護れなかった。もし、あんたが辛い目に遭ったなら…俺があんたを何度だって助けてやる。自分の苦しみを、自分で抱え込むな――あんたが、俺に教えてくれた事だろう?」
ああ、あの時――ドリフトと再会した時、考えた事があったのだ。ファルマも、こんな気持ちだったのだろうか――一人で、ラチェットを待ち続けたのだろうか、と。だが、ファルマといつかは、また出会う気がするのかもしれない――それは、自分でも感じていた。だが、今だけは――。

「――有難う、ドリフト」

目の前に居るドリフトに、感謝の言葉を述べた。それでも、自分がファルマにしてやれなかった事を贖うと共に、ドリフトが自分を守ってやる。と言う彼なりの誓いがあるのだから。


(ユキヤナギが咲くとき、君は笑うだろうか)

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