この美しくも残酷な現実の世界で

ラチェットはファーストエイドの所へ向かう。道中の最中、何も言わなかった――ロディマスも、ウルトラマグナス…もといミニバス・アンバスも、そして彼も――あのルナ1での出来事で相当傷ついたのだろう。今はそっとしておいた方が、良いのかもしれない。近寄ってはいけない、寄り添ってはいけない事が、幸せなのかもしれないのだと。ただ、ファーストエイドだけは、自分だけが何としても向かわなければならなかった。彼に関して、こうなったのは――自分の責任なのだから。

ファーストエイドの自室に入る。ファーストエイドは椅子に座り、蹲っていた。何も言わなかったのだ。
「…ラチェット先生?どうされましたか?」
バイザーで覆われて何も見えないが、目にクマが出来ているのと「、相当疲れたような声をしている。それはそうだろう――ファルマを自らの手に掛けたのは、ファーストエイド本人なのだから。
「…でも、僕は――あの時、ファルマ先生を許す事が出来ませんでした。だけど、だけど…本当は分かっていたんです。ファルマ先生は僕達を守ろうとして、だけど、アンブロン先生を手に掛けたのが――何よりも許せなかったんです…!」
ファルマのチェーンソーによって真っ二つにされたアンブロンの姿を見て、ラチェットも、ファーストエイドも何も言えなかった。いや、彼の信じられない行動に絶句するしかなかった。
「だけど…僕は、僕は…ふぁ、ファルマ先生を、許す事が出来なくて、だか、だから…」
吃逆を上げて嗚咽を漏らしているファーストエイドの頭を、ラチェットは撫でた。もし、プロールとの会話で、ファルマを止めなかったら――だが、ファーストエイドやドリフト、ロディマスらにこれ以上重荷を背負わせたくなかった。人殺しや、卑怯者の烙印を、これ以上背負わせたくないのだから。ただ、ファーストエイドの気持ちを、素直に受け止める事しか出来なかった。


分かっていたのだ。自分の命はもう直ぐ尽きると。だが、それは大きな間違いだった。バンブルビーも、トレイルブレイカーも、ショックウェーブも、アンブロンも、ローラーも、パイプスも――自らの命を投げ打ってまで、何かを守ろうと命を散らしたのだ。これ以上、そんな重荷を背負わせたくなかった。だけど、嘗て、自分が助けたドリフトがオーバーロードの事件の際に、全てを背負ってロストライトに出て行った時――自らの手でデルファイを守ろうとしたファルマもこんな気持ちだったのだろうな。と何処かで諦めていたのかもしれない。ただ、一人で大きな十字架を背負ったドリフトが、勝手に傷ついて勝手に死んでいくのは――許せなかったのだ。

ドリフトの手を差し出す。彼の手は、長い間放浪していたのか、かなりボロボロだった。お前さんが決めた道だろう?だったら――私も、手を貸してやるとしよう。



(少年の、果て)

#prev - #next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -