茜色の涙
「すみません、資料室って何処にありますか?」
「資料室…?左を曲がって真っ直ぐ行った処にあるよ…?それが、どうかしたの?」
「ちょっと、調べたいものがありまして…ちょっとした事なんです。御免なさい、些細な事を聞いてしまって…」
「いいや、良いんだよ。僕はアスク王国の王子だし。君に敬意を払っているよ」

アルフォンスから資料室の場所を聞き出し、言われたとおりに資料室へと向かった。資料室は異界の様々な事象が記されている本がびっしりと揃っている。プリシラはアカネイア大陸で起こった事なら、何か手掛かりが書いてあるのではと考えていた。
「ええと…あっ、ありました。アカネイア大陸の暗黒戦争と英雄戦争と、其れにまつわる伝承についてが書いてある本…これですね」
随分と重たいページだ。とふと頭の中に過るも、ずしり。とテーブルに置いたが、重みが響いてくる。ぱらぱらとページを捲り、其処に書いてあった事実を読み取る。

『最初のはじまりは、ある部族の者がラーマン神殿を訪れた際に――後の暗黒竜と言われているメディウスと杯を交わした。男の名はアドラ。後の初代アカネイア王である。しかし、この時のアドラは盗賊であった――アドラは、メディウスを騙し、封印の盾であるファイアーエムブレムと三種の武器であるパルティア、メリクルソード、グラディウスを盗んだ。封印の盾の要である宝玉は全て取り外され――その在処もバラバラになってしまった。やがてアドラは初代アカネイアの王となり、メディウスは人間の所業に怒り狂った。暫くの間、アカネイア大陸は平和であったが――突然、ドルーア帝国がアカネイア聖王国に侵略し…滅ぼした後、王家の者を虐殺した。老若男女問わず』

プリシラは衝撃を受けた。ニーナの血にはアカネイア聖王国の王家の血を引いていると言われているが、メディウスの怒りを買っていたのか。…だから、あんな虐殺が起こってしまったのかと考えている。

『やがて一人生き残ったアルテミス王女がノルダに逃れ、一人の若者と出会った。彼の名は、アンリ。後のアリティア王国設立に至るきっかけとなった者だ。やがて反撃の狼煙が各地で挙げられるようになり、アルテミス王女は反ドルーアの象徴となった。アンリは、そんな彼女に恋に落ちていたが、それと同時に、彼女を守る騎士となった。やがて彼は幾多の試練を乗り越え、ファルシオンを手に入れた。そして――メディウスに打ち勝ち、アカネイア大陸に平和が訪れた。しかし、アンリとアルテミス王女が結ばれる事は無かった。アルテミス王女は、アカネイア大陸の平和の為に――カルタスと結ばれた。アンリは、アカネイアの忠誠のために、アカネイア王国を設立した――これが、世に言われる『アルテミスの運命(さだめ)』の始まりである。』

では、ニーナの血は呪われているのだろうか。そう考えると、恐ろしい事を考えてしまう。原罪故の宿命、王の所業による罪の王冠、アカネイアの偶像にしか過ぎない…深く、考えすぎなんだろうと思っている。プリシラは本を閉じ、元の場所に戻そうとしたその瞬間――カツン。と靴音がした。
「…誰か、居るのですか?」
後ろを振り向くと、イーリス聖王国の王子であり、マルス王子と同じ神剣ファルシオンの使い手であり――マルスの血を引く者であるクロムが居た。
「…いや、すまない。レイヴァンから頼まれたんだ。『妹の様子がおかしいから、見に来てくれないか』とな」
「…兄様がお世話になっています。すみません、態々私のために…」
プリシラが誤ると、クロムが「謝る事なんてない」と言った。するとクロムは、プリシラが読んでいた本のタイトルを見ると――こんな事をぼやいていた。
「…アカネイア大陸の歴史、か。…俺も、あまり本は読まないが、よく姉さんが幼い頃に英雄王マルスの伝説を読み聞かせてくれたな。リズは、姉さんの血を引いているから」
「えっ、そうなんですか?姉さんって…誰でしょうか」
「姉さんの名前は、エメリナだ。聖王国の平和の為に聖王となり、俺やリズ、今は此処に居ないフィレインに優しく接してくれた。ただ…姉さんは、もう…」
次の言葉は、残酷な言葉を接するのだろう。プリシラはクロムが言葉を紡ごうとした瞬間に、口を開く。
「…有難う御座います。でも、私は大丈夫です…クロムさんの言葉に、少し吹っ切れた気がします。だから…気にしなくても良いんです。今は、目の前にある事を考えて下さい」
彼女はそう思い、リズを何故彼が助けたのか――分かった気がしたのだ。

――彼女と、その姉は…何処かニーナの面影を、重ねていたのかもしれない。



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