さよならのワンシーン
「う、うう…」
ヒノカは目の前にある皿に盛ってある真っ黒焦げのクッキーを見て、落ち込んだ。今日は皆に存分にクッキーを配ってもらおうと言うシャロンの提案で、一部のメンバーがクッキーに挑戦する事にした。…オスカーやルカならまだしも、カミラの頼みでヒノカまで参加する事になった。セツナも参加しているが、ピエリの手伝いもあって何とかなっているようだ。
「…これは、黒焦げなクッキー…だよな、ルフレの手料理よりは遥かに怖いような…」
ガイアはそう言い、ちょっと後退りをした。
「わ、私はただ女の子らしくふるまっただけだ!」
「何と言うか、ずっと戦いの訓練をし続けたツケが来ちゃったわね…」とオボロの言葉に対し、カザハナも頷いた。このクッキーは流石に食べられないであろう。そんな風景を見ながら、プリシラはボーッとしながらクッキーを焼いていた。
「…どうしたんですか?プリシラ様…らしく、ありませんよ?」
「あっいえ…。何でも、無いんです」
ルセアの言葉にプリシラは我に返りながら、オーブンからクッキーを取り出した。
「レイヴァン様から聞きましたよ。最近、あの黒騎士と、暗夜の第一王子に対して気になっている態度が見える。と」
「…お兄様は、何でも御見通しなんですね。でも、ちょっと些細な事なんです。だから…」
自分の余所余所しい態度に、ルセアは「…本当に、気を付けてくださいね」とそう告げた。

クッキーを皆に御裾分けする事が出来て、本当に楽しかった――後は、カムイ王女の処だけだ…彼女は、今の時間帯は夜だ。だから、自分の部屋に居るのかもしれないと思い、彼女の部屋に辿り着き、部屋のドアをノックをしようとした処。

「…アクアさんと会えて、良かったです。…私、ちょっと心細かったんです」

ニニアンと似た雰囲気を持った歌姫が、この部屋に居る。そう言えば、アクアと同室だった事をすっかり懸念していなかった。
「そうね、此処は『夢』であって、『夢』ではない世界。私が消えると言うのは、貴女を一人にさせてしまう事。けれど、貴女には「きょうだい」が居る。私を忘れない限り――私は生きているの」
「…でもね、選択を誤ったら…どちらの兄妹と戦って…傷付いた姿を見てしまうのが、怖くて。もしかしたら…マークス兄さんやリョウマ兄さんを自分の手で殺してしまう未来が、あったのかもしれません」
殺してしまう、未来。『もしも』が全てを左右してしまうが、見えてしまう未来がある。…例えば、あの呪術師のレイと言う少年は、ニノの未来の子供であり、クレインとクラリーネの兄妹も…考えるだけで、恐ろしい事を感じてしまう。
「だから…元気に振る舞おうと考えたんです。けれど…アクアさんのお母さんや、お母様のあの姿を見ると、辛くて、辛くて…」
カムイの赤い瞳からポタリ、ポタリと涙が零れ落ちる。母親?アクアの母親…?きっとカムイの言葉を聞く限り、辛い事でも、あったのだろうか。
「…カムイ、今日は私の前で泣きなさい。私と会えて…心細かったのでしょう?そして…悲しかったのね。ごめんなさい、つらい思いをさせて」
「良いんです。…でも、こんなんじゃ、マークス兄さんや、リョウマ兄さんに怒られちゃいます…タクミさんに、笑われてしまいます…」

(…ごめんなさい、カムイさん。私、貴女の事を全然知らなくて…かなり、つらい戦いをしていたんですね…)
プリシラは泣きじゃくってるカムイの声を聞いて、ふと思った。

――恋人を失ったニーナ王女も、こんな気持ちだったのでしょうか。

プリシラは彼女らにクッキーを渡す気にもなれず、このクッキーを、お兄様やルセアさん、そしてセーラに分けて貰おうと考え…部屋を後にした。

――その姿を見た、一人の竜騎士の影に気付かずに。



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