透けていく背中
あの時の事を、思い返す。ネルガルと、ニルスとニニアンの姉弟の――竜を巡るあの戦いを。闇に飲み込まれれば、もう元に戻れない事を。彼女は一番それを知っている。

「…ニーナはハーディンよりも、亡き男を追い続けた。ハーディンの愛がニーナに届かなかったと分かった時は全て遅すぎた…がな」

一歩後退りする。怖い、でも…真相を知りたい。真実を知らなければ、何かが分かる気がする。でも、後退りする事さえ許されない覚悟なら…出来ている筈だ。プリシラは、ミシェイルの方を見る。嫌な表情をしている…何か苦虫を噛んだ様な表情をしているが、大丈夫だろうか。

「暗黒皇帝と化したあの男は――あいつの祖国であるグルニアを蹂躙し、俺の妹に酷い事をした。…死にかけた妹を助けたのは俺だ。最も、あいつを許すかどうかは分からないが、妹を殺しかけた事は許さないがな」

プリシラはミシェイルの方を見ている事しか出来ない。彼から語られる真実は、最も残酷な真実でもあった。真実は、知らない方が幸せな時もある。其れは御最もな事なのであろう。だが、知る事も…時に自分自身と向き合わなければいけない事もあるのだから。
「純粋にニーナを愛していた。しかし、彼女の愛が自分に向いていないことを知ったあの男は、ガーネフに心の闇を付け込まれ、闇のオーブの虜となった…英雄戦争の勃発だ。暗黒竜を共に戦った者たちが敵味方に分かれて今度は殺し合いをする、悲惨な戦いだったがな」
「…私は、ハーディンと言う人が、闇に取り込まれて、飲まれ…悲惨な結末を迎えたのを想像してしまうんです。…闇に取り込まれたら一度、元にはもう、戻れませんから…」
ミシェイルは「そうだな」とプリシラの方を見て、竜舎の天井を見る。
「…ハーディンは倒された。少なからず、闇のオーブに対抗出来る光のオーブを持ったマルスの手によってな。だが、ハーディンを裏で操っていたガーネフを倒すまでは、英雄戦争は終わらなかった…俺の妹のマリアが、暗黒竜メディウスの生贄にされかけた」
あの健気なシスターのマリアが。とプリシラは驚きを隠せない。だが、ミシェイルは黙々と話を続ける。
「マリアだけじゃない…マルスの姉エリスと、シスターのレナ…それに、ニーナまでが暗黒竜メディウスの生贄にされていた。俺はマリアを助ける為にガーネフと戦ったが…返り討ちに遭ったがな。だが、ファルシオンとスターライトは奪い返し、マルスに其れを託した…あいつも、姿を変えて、名前も偽っていたが、ニーナを救うと言う信条は変わらなかった」
プリシラは、彼がガーネフに返り討ちに遭ったと聞いて…それ以上は彼に追求する事はしなかった。するとミシェイルは口を開く。
「…カミュは、無茶な男だ。どれ程メディウスやドルーアに酷い目に遭わされても、ニーナを救うと言うのはあまり変わらない。だが…アスク城の書物では彼女が『英雄戦争勃発した原因の一つ』と供述されていたが…俺は、それ以上は追及しない」
ミシェイルは全てを語り尽したと言うように、立ち去って行く。竜舎から出て行った後、一人残されたプリシラは、不意に近くに居た一匹の竜が悲しそうに鳴いているのに気付いた。
「あっ…一人ぼっちは寂しいの?大丈夫です。私が居ます」
竜の頭をそっと優しく撫でる。まだこの世界に来ていないヒースの竜も、最初は怖かったが…よく見れば人懐っこい部分もあった。竜はぐるるるるん。と鳴き、プリシラは「よしよし。」と言った。
「ええと…これは、誰の竜でしたっけ。……?」
そう言えばこの赤い竜は、ミシェイルの竜であった。と言う事は、彼の竜なのだろう。プリシラは彼の竜は可愛い一面もあるんですね。と思った。



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