錆びついた言葉
その翌日、プリシラは竜舎に向かっていた。あの騎士の言葉の真意が知りたい。だが、どうしても誰にそれを相談したら良いのか悩んでしまう。オグマやナバール、シーダでは彼の一面を知る事は出来ない。理由は簡単だ。彼等はアリティア側で戦っており、ドルーア側ではない――では、元々ドルーアに居たミネルバなら彼の一面を知っているだろうか。そう信じ、竜舎に辿り着いた。
しかし――ミネルバの姿は無い。何処に行ったのだろうか。プリシラが恐る恐る強面な竜が犇めいている廊下を歩くと――不意に、後ろから声をかけられる。
「おい」
後ろを振り返ってみると――マケドニア王であり、シスターのマリアとミネルバの兄であるミシェイルが不機嫌な顔をしながら立っていた。
「此処は貴様の様な女が来る場所ではない」
「…ミネルバさんを、探していました」
「ミネルバだと?」とミシェイルが妹の名前に反応をした。やたら不機嫌な顔をしているが、これ以上妹の名前を出すのは止そう。とこの時思った。
「…少し、カミュさんについての話があるんです。彼についての事を、ミネルバさんなら知っているかもしれません…と」
「…ああ、あいつの事か?あいつはハッキリ言って、無茶が祟って自分に返ってくる事もある、真面目で大馬鹿者の男だ」
…共にアカネイア大陸に反旗を翻した国を束ねる将なのに、何て言い様なのやら。プリシラは、思い切ってカムイの事を話した。
「…カムイを見たカミュさんが、彼女とニーナっていう人を重ねた…過去に何をしたのかは…彼の心に深い傷を負っているのかもしれません。彼に直接問いかける事は、恐れ多くも、出来やしません。なので、他の人に話をしても…そんなに深い話を得られる事は出来やしないと思います」
ミシェイルはニーナという言葉に反応をし、「ああ…あの女の事か」と口を静かに開く。
「ニーナと言う女は…アカネイア聖王国の生き残りの王女だ」
生き残り。嫌な予感がするとプリシラは、この時思った。
「…アカネイア聖王国の王族は、ドルーア帝国によって全て皆殺しにされている。老若男女問わず、な。…ニーナは、カミュの手で救い出された。仕方ないよな、では済まされない。あの男の祖国のグルニアはドルーアの恐怖によって屈したからな。その事を負い目に負ったあいつは、ニーナを救い出し、2年間の間、ささやかな会話をしていたらしい」
プリシラは、黙り込む。虐殺…そんな不穏なワードが飛び出すとは思ってもいなかった。つまり、彼はドルーアに無理やり従わされていたのだ。
「…あいつは、無茶が祟る男だった。ドルーアから彼女の引き渡しが来た際は、自分の身を挺して彼女をオレルアンに逃がした。だが、結果はカミュは指揮全権を剥奪され、ドルーアの言いなりのままだった。英雄になれないまま、大陸一の騎士からドルーアの将に堕ちた。そいつは騎士として生き、騎士として死んだ。…ニーナの悲しみは、深かっただろうな。愛する人がいない世界など、意味はない。」
「…そう、ですか…。」
「だが…ニーナはアカネイアの王女の立場を嘆いた。器に耐え切れられなかった。しかし、仮にも王族の立場だ。大陸を統べる者の立場は無理がある…が、大陸を守る為に、ハーディンと婚約をした」
前に、リンダと話す機会があって、アカネイアについてを教えてくれた。ふいに、気になった言葉があった。
『炎の紋章を行使する者は、愛する者と結ばれない運命を迎える…それが、アルテミスの運命(さだめ)である。』
アルテミスの運命。まさにニーナはその立場だったのだ。プリシラは、ミシェイルの話を聞く事しか出来なかった。
「…あの男は、アルムと言う小僧のバレンシア大陸の者達の話を聞く限り、生きていたのだろう?…生き残ったのは、不幸だっただろうな。死ぬ事すら、許されなかったからな。何の因果なんだろうな」
少し前に、クレーベやマチルダも、カミュと話をしていた。其れを見る限り、微笑ましかった。だが…残された者達の心の痛みは、想像を絶するものだったのだろう。
するとミシェイルは、次の言葉を口にした。

「…その婚約者のハーディンは、ある境に、変貌した…。暗黒皇帝と、化した」



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