水面に触れる指先
プリシラから見た異界の暗夜王国第一王子マークスと、黒騎士の異名を持つパラディンのカミュは、敵から見たら圧倒的に恐れられているが、彼女やアルムと言う少年から視点を見ると、心優しい騎士の姿であった。騎士の中の騎士――敵には容赦ない彼等は、何処か憂いの瞳をしているのに気付いた。誇り高い騎士であれ、まるで御伽噺の王子様の様だ。と誰かが言っていた。召喚士のエクラが神器を持っているように、彼等もまた、ジークフリートと言う剣とグラディウスと言う槍の神器を持っている。カミュは彼女の兄レイヴァンと似た雰囲気を持つ――書物では恐るべき王として描かれていたマケドニアの王ミシェイルと良く会話しており、マークスは自分に時折ナンパしてくる部下のラズワルドを説教していた。だが、彼女から見た二人の騎士は――彼女から見れば、『違和感』しか感じなかったのだ。あれは、そう――この前の戦闘中、異界のイーリスの王女リズが敵の兵士の攻撃を受けそうになった時だ。無防備になった前衛の隙を突き、兵士の一人が雄叫びを上げてリズに剣を振るおうとしたのだ――だが、其れをカミュはグラディウスを持って駆け付け、兵士の胸を一突きして彼女を助けたのだ。一体何故だろうか。とあの時思う。リズはクロムに大丈夫か。と急かされて、リズは「だ、大丈夫」と言っていた。
何故、あの時カミュはリズを助けたのだろうか――無関係な筈なのに、無関係では無い。そう自分の中で直感していた。何か、過去にでも悔しい事や、悲しい事――後悔している事でもあったのだろうか。彼女は当時を思い出し――違和感を拭い、食堂へと急いだ。

食堂は人がいっぱいだった。マシューがヘクトルと会話しながら出された食事を食べていて、あのマークスの臣下のラズワルドが自分と同じトルバドールのクラリーネをナンパしており、クレインが彼の耳を引っ張って退散させているのが見える。
自分はフレンチトーストと南瓜のスープを注文し、席に座った。ふと、隣を見ると暗夜王国の王女であるカムイが、席に座っていた。竜騎士のカミラや、あのマークスが溺愛している(と言うかカミラの彼女に対しての溺愛っぷりは可笑しい)王女であり、ニニアンと同じ――竜の血を引く王女でもあった。
「あっ、プリシラさん!席、一緒なんですね」
「はい、偶然カムイさんと出くわすなんて、思いもしませんでした」
カムイは自分の言葉に言葉が弾み、彼女は色々な話をした。自分の可愛い妹のエリーゼとサクラについての話、自分の馴染みであるエルクと同じ魔導士の弟レオンや、弓使いのタクミ――姉のヒノカとカミラ、そして兄のマークスとリョウマについての話だ。彼女の会話は楽しそうだ。まるで、本物の家族のようだと思っている。ルセアやセーラ、自分の兄であるレイヴァンと比べ――彼女は本当に恵まれていると思っていた。だが、彼女のある言葉をきっかけに、空気は変わった。

「――でも、ある時カミュさんと出くわしたら、私の頭を撫でてくれました。その時の彼の表情は、とても悲しそうでした」

『君はニーナと似ている――運命に翻弄されても、愛しい身近な肉親を失っても、健気に頑張っている。いや、彼女とは――似ていないのだろうな。運命に耐えられたのだから…』

一体どう言う事なのだろう。と思う。あのカミュが、カムイに対してそんな言葉を開くなんて。カムイは健気に、振る舞っているが――何処かぎこちないようだ。
自分はこの事を誰にも打ち明けられずに、そっと心の中に隠して置く事にした。恐らくは、知りたくない事実を知ってしまうのだろう。だから、心の中に隠しておく事にした。

――ただ、あの黒騎士の身に、過去に、何があったのだろうか。



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