夜に染まる街は酷く冷たい色をしていた
アスク城の外れに、深い森がある。森のざわめきが、冷たい風の音が、蛍の光が――森を包み込んでいる。プリシラは一人、佇んでいた。
――カミュから見たカムイ王女は、ニーナの面影と何処か重なっていたのだろう。健気で、美しくて、そしてひとりぼっちで――けれど、何も考えても意味が無い。森に佇んでいるのは、ある言い伝えを確かめる為だ。
この森には、人の魂が彷徨っている。異界の者か、或いは死んだ者たちの眠れぬ魂か。と言う、ありきたりな言い伝えだ。
そんな言い伝えを聞いたレイヴァンやヘクトルに「そんなものは迷信に決まっていると」鼻で笑われてしまったのだが。
「…やっぱり此処に、居たんだね」
「!…レオンさん?」
暗夜王国第二王子のレオン。彼が操るブリュンヒルデは強力無慈悲な一撃を与え、他の魔導士や戦士の追撃を許さない青年である。
「…マークス兄さんから、君の行動を聞かされてね。聞いたよ、姉さんの事を」
あの堅物のマークスから、自分の行動を聞かされていたのか。と驚かされた。結構、人を見る目があるのだろうか、彼は――ふと、そんな事を思いながら座り込んでいると。
「…あの騎士の事を気にしているのだろう。正直、異界の王女を身を挺して助けるのは、かなりの無茶振りをしているね…過去の負い目なのは、分かっているのだろうけれど、過去を振り返っても――今は此処の居ない人の事を考えても、何も変わりはしない。…そうだろう?」
「でも、昔の事を振り返ってはいけません…私達も、異界の者が手を取り合って、自分と同じ異界の英雄達と闘わなくては…いや、エンブラ帝国の魔の手から解放されなくては、このつらい戦いは終わらせないと、思うのです」
「…ふーん、君も結構、見る目があるんだね。…姉さんの事、必死で理解しているのを見ると…その甘さは、君の欠点だけど――同時に、長所だと思う事がある。けれど、心から、礼を言うよ――有難う、姉さんの事を思ってくれて」
レオンはそう言い、空を見上げる。
「確かに、暗夜王国では蛍の光は死んだ者達の魂の象徴と言われている。…けれど、思う事がある。死んだ者達の魂は、何処へ行くんだろうね。此処じゃない、何処かか――それとも、此処じゃない、何処かに」
ロイドとウルスラ、そして――変わり果てたゼフィールの姿を見て、思う。何れは寿命で死ぬか、戦いに散るか――二つで一つの結末を選らなくてはならない、魂の事を。アカネイア大陸は英雄王マルスの勝利で長らく平和の日々が続くが――後にイーリス聖王国での戦いを発端に、繰り広げられる争い。マルスやシーダを見ると、何れは人の寿命を考えると、人の命など、蛍の光のように儚く、脆い…けれど、その命の輝きは、光を与える事がある。
「…僕は、マークス兄さんの事を、理解していたけれど…マークス兄さんのほうが、姉さんの事を理解しようと必死に努力していた。血の分けた兄妹の血で血を流す争い――ずっと見てきたから、さ。…姉さんは、種族も血も関係なく、人を隔ててくれる事もなく、理解しようと努力し、辛い思いをしても…自分の心に屈しないように、前を向き続けていたんだ」
レオンの言葉は、悲しく――冷たく森の中に反響していた。やがて、朝は訪れる。それでも、前を向かなくては――死んだ者たちの魂が浮かばれないのは、何故だろうか、誰かに背中を押された気がしたのだ。



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