『私は…貴方を…最後まで…愛していた…どうか、許して…ほしい…と』
暗黒皇帝ハーディンは、最期の時にそう告げていた――と、王の中の王と言われている英雄王マルス一世の王妃であるシーダは、ハーディンについて、そう言っていた。
どうか忘れないで欲しい。英雄戦争…もとい、暗黒戦争は誰も、元凶や悪など無かった。我々人の過ちが起こした…原罪の灯であるのだから。
――ある歴史研究家の古びた書記より。イーリス聖王国外れにある平原の小屋の庭から発掘された。



「俺はそんな下らないさだめなど信じないがな」
そしてまた明くる日、アスク城の庭の木陰で居座っているミシェイルに対して、カミュが昨日の事を話すと、ミシェイルは「下らないな」と答えた。
「俺も貴様も偶然であり必然の出会いだったと思えるが、アルテミスのさだめだの、呪いだの…信じないタチだがな」
恐らくガーネフを少し恨んでいるのであろうか、ミシェイルの口は少々辛口であった。目の前にはエリーゼが持ってきた本をリオンが座って読み聞かせをしており、エリーゼは喜んだ顔をしている。可愛らしい風景だ。と思う事がある――のだが、ミシェイルは、
「…あの皇子、時折辛そうな表情をしていた。恐らく、あの皇子が言っていた幼馴染の事が絡んでいるのだろうな」
ミシェイルはバツが悪そうな顔をしており、カミュはミシェイルに対し、口にする。
「だが…彼もまた、生きている事を嬉しく感じている」
「貴様はそうではないだろう」とミシェイルはカミュに対して、そう口にし、立ち上がる。
「あの女を、愛していたのだろう?」
愛していた――愛する事が出来なかった。自分はグルニアの騎士だから、彼女はドルーアと敵対するアカネイアの王女だ。だから…愛する事は出来なかった、いや、出来る筈が無かったのだ。あの時、自分はニーナに対し、カミュではない。と答えた。待っている人が居る。信じられる人が居る。それだからこそ…愛する事が出来る筈が無かったのだ。彼女を悲しませて、一体何が出来たのだろうか。

『もう、良いのです。もうそれ以上苦しむ事はない…貴方は、悪い夢を見ていたのです…』
『…貴方、は…?』
『…ニーナ姫!負けてはいけない…貴方は、それ程弱い人では無い筈だ!』
『あ…貴方は…カミュ…!?カミュなのね…!?何故、何故貴方が…私は夢を見ているの?貴方が生きていたなんて…ああ、本当に…』

『――王妃よ、貴方は何か、勘違いをしている。私は、同盟軍の一兵士、シリウスと言う者。カミュなど、知らぬ…』

「…ああ、愛していた…愛していたのだ」
愛する事が出来なかったのなら、自分に出来たのは、精一杯のあの言葉だった。けれども、彼女が差し伸ばしたかった手を…自分は、振り解いてしまったのだ。あの大陸で、今を生きる事。それが贖罪に繋がると、信じていたのだから。

愛する事は、とても素晴らしいと思っていた。けれど、誰かを好きになるという事は、とても辛い事なのだから。

「これ以上、だれかを苦しめたくない…けれど、愛する人を想い続けたい。蠅の王の呪いを解く為に、老婆は…命の灯が消える際に、古い子守唄を歌いました。すると老婆の目の前に、あの懐かしい笑顔をした、愛しい人が目の前に現れました。もう、良いんだ。それ以上苦しまないでくれ…そう言い、彼女を抱きしめました。蠅の王の呪いは解け、彼女の子供達は、救われたのです。ですが…街の中、息を引き取って倒れていた老婆の笑顔を、街の人たちは、不思議そうに思いました」

貴方を愛している。

彼女の言葉が…何処となく、聞こえているように思えた。けれど、それでも…自分は、前を振り向く事しか出来ないのだ。そう、言い聞かせながら…願った。

貴方は、幸せになって欲しい。と。

白い花畑の中に、彼女の笑顔が――とても美しいように思えた。ニーナは、白いブーケをもって、ほほ笑んだ。
「ねえ、もしも――この戦いが、終わったのならば――」




冒頭の台詞…紋章の謎『暗黒皇帝』のハーディン撃破時の台詞より
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ずっと君に救われたかった



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