『渇いた大地には疑心暗鬼の雨が降り、私の国は一夜にして滅んだ 信じあう心…それは『忘レてはいけないモノ』何故もっと早く気付かなかったのだろう…』
テリウス大陸 セリノスの森で発見された、ベグニオン帝国の兵士によって殺されたと思われる鷺の民の少女が記した歌詞の楽譜より



彼が目覚めるのを待ち続けていたら、ソファで座っている時にうとうとと何時の間にか居眠りをしてしまった。自分が目を開けるきっかけとなったのは――紅茶の匂い。ふと、目を開けるとカミュがベッドに腰かけていながら、ティーカップに紅茶を淹れていた。リオンは目を見開きながらソファから立ち上がり、「す、すみません」と謝罪をした。
「いえ、良いのです。リオン皇子に心配をおかけしました…大した事は無いだろうと言っていましたが、しばらくは安静にした方が良い。と軍師殿が」
リオンはうん…と無言のまま、ティーカップに淹れられている紅茶を口にした。リオンは「あ、あの」とカミュにある事を説いた。

「あの時は…ごめん、なさい…」

カミュはリオンが謝った事は――恐らく、昨日の事だろう。彼がアルテミスのさだめと、彼女についての話をして、自分のせいでカミュが祟られたと思っている。しかし、彼はリオンにこう説いた。
「謝らなくていいのです…。私は出来る限りの事を、やっただけなのです。あなたが話をしても…何も、変わらないのですから。自分がいまこうやって生きている事は…幸せなんだと、思ってください」
其れは恐らく、死に損なった自分から彼に対してのメッセージなんだろう。と思っている。彼女に「生きろ」と告げるのは、呪いである。と誰かが言っていた。生きる事は、とても辛い。死にたくても…彼の約束を破ってしまう。だから、茨の道を歩く事しか出来ない彼女に、何を告げればよかったのか?何を…言えば良かったのか?
リオンは、彼の俯いた表情を察して、こう口にする。
「僕は…確かに優しい。けれど、この優しさを傷つけてしまった事がある…エフラムも、エイリークも…沢山、友達に恵まれていた。気付けば、僕は一人になってしまったんだ。けれど…もし、此処で自分が生きているとしたのなら…誰かが、喜ぶのかな?」
喜んでくれるであろう。昨日、リオンの部屋に行く途中に――暗夜王国の第二王女が楽しげに彼の部屋から出て行ったのだから。
「貴方が生きているからこそ…誰かが喜んでくれる人が居るのですから」


リオンが彼の見舞いと称して…マリア王女からの差し入れらしく(彼女の頼みでもあった)、手作りのクッキーを置いて行って出て行った後、カミュは一人、ベッドで額に手を当てていた。

『貴方は…貴方は、何処へ行くのですか…?』

「生きろ」と彼女に告げた言葉が、ハーディンを追い詰めた自責に押し潰された彼女を自分が救えたのだろうか。リオンに対し生きているからこそ。と説いたが、過去にはもう戻れないと一人、悩んでいた。
リオンとエリーゼが楽しそうに読み聞かせをしていたのを見て、今は此処には居ないユミナとユベロを思い返していた。もし、自分が選択を誤っていたのを気付いていたのなら――それは、今思う事では無い。だが、彼に対して説いた言葉が、つらく、ひどく感じていた。
「…聖人君子ではないが、私は…優しいとは、言い難いのだろうな」
思い浮かぶのは、白い花畑で綺麗な笑顔を浮かべる、彼女の愛らしい顔。それは、もう二度と――見る事は無いのだろう。と切り捨てながらも、窓の夜の風景を見ながら、カミュはそう、念じていた。


冒頭の文章はS/o/u/n/d/H/o/r/i/z/o/n/の『失/わ/れ/た/詩/』より
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