『誰もかもが私を愛して、いつだって私は幸福で……だから私のいるこの場所が楽園だって、あの人は信じて疑わない…ならいっそ地獄に堕ちたかった。この身を炎で焼かれたかった。そうやって私が泣いて助けを求めれば、あの人だって…気付いてくれたかもしれないもの』
――白夜王国に伝わる美しい絡繰り人形と復讐鬼の物語より。著者:不明とされている。白夜王国の軍師であるユキムラは、美しい残酷な兄妹愛の物語であるが、これを描いた著者は分からず仕舞いだ。正当に評価出来たのに。と供述している。



薄暗く、冷たい部屋の中に居る美しい美貌――『アカネイアの白薔薇』と言われる王女は、牢屋の中で一人佇んでいた。仮面を被り…自分ではない自分を演じた男は、彼女が居る牢へと辿り着いた。
「貴方を迎えに来ました…だから、もうこの冷たい牢屋の中で一人――蹲る必要はない。さあ、早く――」
自分が彼女に手を差し出そうとすると、彼女は、震える声で言葉を紡いだ。
「ごめんなさい…私は、此処から出られない」
「もう、この冷たい、暗い部屋の中で一人で震える必要は――」「…出来ないの」
何故。自分がそう答えようとした瞬間。
「…ガーネフに連れて来られた時に、魔竜のマムクートに抱かれた…複数のマムクートに…放り込まれて…私の中に、魔竜の血を引く子を孕んでいるの…そして、真実を知ってしまった。この忌まわしい呪いは、絶たないといけない」
真実――彼女の、忌まわしい血の事なのだろう。だが、血がどうであろうと――彼女は、彼女だから。
「…王妃、まだ、やり直せる事は出来る…だから、私の手を取って――」
「――カミュ」

私は、貴方を永遠に愛していたかった。愛したかった…だから、もうお別れ。

さよなら――彼女が、短剣を首に突き刺した時に、彼女の名前を悲痛に呼んでいた。


「ねぇリオンさん、また今度の読み聞かせをして!」
「…うん、いいよ」
エリーゼが可愛らしい子犬のように、余程自分の読み聞かせが気に入ったのだろうか――人懐っこく駆け寄っていた。アスク城の廊下にて自分と彼女が楽しげに次に読み聞かせする物語についての事を話しながら歩いていると、突然アメリアが駆け寄って来て…何か、息を切らしている様子だった。
「どうしたの、一体何が…?」
彼はアメリアに話しかけると、アメリアは慌てているのか、ショックを受けているのか…呂律が回らない状態だった。リオンは「落ち着いて、ゆっくり話して」とアメリアを宥めていると…信じられない事を口にした。
「か、カミュ将軍が…模擬戦の指導をしている最中に、攻撃を受けて態勢を整えようとした途端に体のバランスが崩れて…落馬した上に、体を強く転倒しまして…!意識を失って…!幸い、近くで観戦していたジェニーさんの杖で何とか大事には至らなかったのですが…今、寝室で休んでいます」
まさか。そんな筈は――偶然の筈ではない。昨日はカミュ将軍と話をしていたのだが、迂闊に過去を探った罰なのだろうか。リオンは絶句を隠せずにいた。
「…あの、アメリア……?」
「はい、何でしょうか?」
アメリアに対して自分は、カミュ将軍のところに行っていいかと問い掛けると、アメリアは「はい…今処置が終わった所なので、軍師殿の許可は下りています。だから…今行っても良いと思いますよ」と答えていた。
「…あの、リオンさん?」と彼の処に行こうとする自分を、心配そうに見つめていた。
「――大丈夫だよ、今度の読み聞かせは、また明日にしておこう」
それが、自分を保つ自分なりの方法なのだろう。と自分に言い聞かせながら。

彼の自室にやって来たが、目元に濡れたタオルが被せられており、ベッドで眠っている。静かに寝息を立てているようだと思っていたのだが…時々、呻き声をしている。何か、悪夢に魘されているのだろうか。…ふと、花瓶に福寿草が生け捕られ、飾られていた。そう言えば彼の自室に行く最中に、無邪気な神竜族の少女が手元を濡らしており、廊下を水浸しにしながら走っていたのを見ていた。恐らく、彼女なりのお見舞いだったのであろう。
「…早く、目を覚まして下さい。僕は、貴方に謝りたい事があるんです」
自分はぽつりと独り言を言いながら、近くに置いてあったソファに座り…彼が目を覚ますまで、ずっと見ていた。


冒頭の台詞。アダルトPCゲーム『鬼/哭/街』より。カミュとニーナの会話シーン『最/遊/記/』の八戒の恋人の自決の回想シーンのオマージュ
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暗い海で手招く憎悪



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