「あのお方が騎士の誇りにかけてお守りした貴方を ここで傷つける訳にはいきません」
――グルニア黒騎士団副将軍の言葉。アカネイアの王妃はグルニアが誇る黒騎士団のカミュ将軍について、そう仰っていたと言われている。
ある歴史家のアカネイア戦記について供述した書物より


「ぁ………」
――気まずい。今の読み聞かせを聞かれてしまったのか、それとも自分が読んでいたこの本に目を付けたのか…どうしよう、彼の心を傷付けてしまったのかもしれない。慌てて本を持って立ち上がり、
「…すいません、今出て行きます」と急いで自室から出て行こうとした。カミュはリオンが自分がアカネイアにまつわる記述――過去を探っていた事に退散しようとしていた事に気づき、彼を引き留めた。
「リオン皇子、誰かを思いやる心は分かります…。ですが、ただ闇雲に出て行こうとしても、何も変わりません。その話は、私も聞かせて欲しいのです」
リオンは(後戻りは出来ない処まで、深追いしてしまった)と自らが犯した探求の過ちに
気付き、ゆっくりと…ソファーに座った。

「…僕は、グラド帝国の皇子だけど…闇魔道の使い手なんだ。だから…屍術や、闇の魔法…呪いについて詳しい。けれど、この本を読んで…この、アカネイア王家の掟のアルテミスのさだめについてを調べたけど…ある種の呪いを感じてしまった。だから…この事と今の読み聞かせについては、謝ります。誰にも言われたくない過去を探ってしまったんだから――」
リオンが謝ろうとすると、カミュは「いや、良いのです」と口にした。
「貴方が、誰かを思いやる気持ちと、優しげな心を持っている皇子は、理解出来ました…。ですが、他者を傷付けたくないから、謝って逃げる事は…誰かを傷付ける事になるのですよ」
カミュはそう論した。リオンは、ああ、やはり英雄王マルス王子と対峙した黒騎士団を率いる長としては――優しすぎる。いいや…聖人君子なのだろうかと感じ取ってしまった。他者を思いやり、自分を自己犠牲にしてまで――その姿は、聖人に相応しいと思えてしまう。だが、どうしても彼と話をすると、恐ろしく感じ取ってしまうのだ。その優しさが、無意識に他者を傷つけてしまう事を。自分も、誰かを傷付けていた。と感じ取ってしまう故に、彼から感じ取る、優しさは時として仇となり、刃となる騎士の中の騎士を――自らの死すら厭わぬ、聖人さを。
「…私は、貴方を咎める事はしません。だから…辛い事や、吐き出したい事を、しっかり言っておけば良いのです」
ああ、彼は優しい人だ――それと同時に、恐ろしく感じてしまうのだ。この優しさを。リオンは、息を吸って…吐きながら、自らの言葉を言った。
「…アルテミスのさだめについての事でしょう…あれは、呪いを感じ取りました。自らの罪を悔い改めずに――力で制した王への、竜の怒りが」


彼女はずっと一人だった。王女に相応しい器を持っていなかった――ただひとりの女性であり、普通の女性だった。
「僕は、それが恐ろしいと思えるんです。力を力で制する、その高慢な人の罪が…竜の怒り――いや、執念と思える呪いを呼び寄せてしまったのでしょうか」
リオンの言葉は、事実だった。ニーナは、アカネイアの王女として普通に暮らしていける筈だった。だが、彼の血族の祖先の罪が――メディウスを呼び寄せてしまったのだろう。彼女の力では、どうしようもなかった。血が――流れ出る血族の原罪が起こした、呪いである事を。憎しみである事を。リオンの話は続く。
「恐らくメディウスは…アドラの血を引く者を虐殺したのは、アドラを許さなかったのでしょう。メディウス自身も、憎しみに呑まれ…暗黒竜と化した。美しく気高い、そして高貴で清らかなアルテミス王女の様な、清らかな聖女――司祭を四人生贄にしたのは…アルテミス王女への恨みなのでしょうか。そうでなければ、あんな悲惨な戦争が起きる発端にはならない…ニーナ王女は、何も罪もない…けれど、彼女の血筋が、悲劇を起こしてしまった」
リオンの言葉も、一理道理がある。アカネイアは、高貴なる聖王国と言われていた――だが、実際は違った。だが、ニーナは何を間違えていたのか?何を――愛すればよかったのか?誰を、信じればよかったのか?自分を自分ではなくなる、愛する事も出来ないまま、レーゾンデートルを壊されていく現実に、耐えきれなかったのか?
「…貴方は、優しい人ですね。ですが…貴方のその優しさが、彼女を傷つけてしまったのではないのでしょうか。僕には、そう感じられる…けれど、僕も同じだ。優しさで誰かを傷付けてしまった事があるのだから」
リオンの自傷と思える言葉に、自らはこの言葉を口にした。
「リオン皇子…確かに、私も、貴方も…取り返しのつかない事態を起こしてしまった。けれど、自らが決意した事は…間違ってはいない。私は、知っていたのだ――他者を信じ続けた結果、犯してしまった取り返しのつかない罪を」

そう、彼女の白薔薇のような笑顔は、もう二度と見れる事は無いのだ。

「――暗くて冷たい闇の中、一人になるのは…私と、彼女で十分なのだから」



冒頭の言葉…箱田版FEのMAP20「グルニアとマケドニア」より。黒騎士団副将軍ローエンの台詞より


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独りよがりの人魚姫



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