『愛して而も其の悪を知り、憎んで而も其の善を知る…これが貴方に贈る、最後の言葉だ』
――エレブ大陸に伝わる本『邪なる女神と炎の剣を持つ勇者の物語』最終章より



「…昔々、それはそれは美しい美少年が居ました。美少年は、生まれつき孤児だった為、お金持ちに虐げられていました。いつか少年は思いました。どうして弱者は虐げられ、強者が弱者を支配するのだろう。この世界は、腐っているんだ。腐っている…。と。お金持ちに引き取られた美少年は、ある魔導書を見つけました。それは、蠅の王と契約を結ぶ為の魔導書です。
蠅の王は、悪魔でした。悪魔と契約を果たした少年は、何時しかそこで出来た幼馴染と一緒に、軍に入隊しました。少年は誓いました。誰もが平等なる世界を作る為に、蠅の王の力を手に入れるんだ。と。何時しか出来た幼馴染の妹と婚約を果たす事になりました。彼女は、彼を愛していました。
ですが、少年――男は、間違った過ちを行ってしまいました。幼馴染を切り捨て、彼の全てを奪い…頂点に達しました。彼は蠅の王と契約を果たしました。ですが、幼馴染は生きていました。神の使いである蛇の王の力を借りて、男を討つと誓いました。
彼は婚約者に誓いました。永遠の愛を誓いました。彼女も、それを信じていました。
…ですが、彼は蠅の王と契約した代償に、地位も名誉もすべて、失いました。…勿論、自らの命も、幼馴染に討たれた形で失いました。
彼女は、今もそれを信じています。彼女が政略結婚し、子を宿しても…彼女の血を受け継いでいる子供は、愛する者と結ばれないのです。これが、俗に言う蠅の王の呪いです」

柔らかな声が響き――綺麗な金色の髪をした、リボンを付けている少女に読み聞かせをしているのは――グラド帝国の皇子リオン。手に持っている本はグラド帝国で一般的に広がっている物語の本だ。書庫で偶然それを見つけた暗夜王国の第二王女エリーゼを見て、自分が読み聞かせをしてあげると言った。自分の自室のソファで、自分の隣に座っているエリーゼはリオンがもう物語を読み終えたのだと気づき、可愛らしい声を発する。
「…とても悲しいお話なんだね。お嫁さん、可哀想…」
「僕も、この本は苦手だった。とても辛いお話だったんだ…エイリークやエフラムが持ってきた物語の方が、凄く楽しかった。竜と共に生きる騎士のお話や、神様と女神さまのお話の方が面白かった」
リオンはふふっと微笑みながら、その本をテーブルに置く。自室のドアから、彼女の臣下…アーマーナイトの女性の声がした。
「エリーゼ様ー、レオン様が呼んでます!」
「あっ!レオンお兄ちゃん…もう帰って来たのね!じゃあね、リオンさん…物語、すっごく楽しかった!あたし、行って来るね!」
エリーゼは直ぐに自室から出て行き、一人残されたリオンは「行っちゃった…」とぽつんと呟いた。直ぐに、物語の本を書庫に返そう…と、テーブルに置いてある本を持ち出そうとした途端、もう一冊の本が床の下に落ちた。
「…アルテミスの、さだめ?」
そう言えば、間違ってマギ・ヴァル大陸の本が保管されている書庫に何故かその本が置いてあって、うっかり持ってしまったのだろう。
「…アカネイア大陸についての本なんだろうけど…」
リオンは、本を開き…部屋で口を開いた。

アルテミスのさだめ。それは、「炎の紋章を行使した者その全てを、王家に捧げるべし」アカネイアの掟なのである。炎の紋章の力で――王家を回復できた代償に、最も愛する者を失う。それが、アルテミスのさだめなのである。

このさだめの発端は――元々炎の紋章は竜の力を制する封印の盾であった。しかし、アカネイア王の祖先である盗賊のアドラは、ラーマン神殿から、盾と三種の神器、財宝などを盗み…盾から聖なる宝玉を抜き取り、売り飛ばし…金で兵を雇い、その神器の力で大陸を統一した。それが、竜の怒りなのか…ラーマンを守り抜いていたメディウスの怒りなのかは定かではない。
メディウスを討ったアリティア王のアンリは、アカネイアの生き残りであるアルテミス王女とは結ばれる事は無かった。王女は、当時解放軍のリーダーであり、後のオレルアンの初代国王となるカルタスと婚約を果たした。これが後に言う、アルテミスのさだめの発端なのである。

リオンは、思った。
これは――さだめなんかじゃない、掟なんかじゃない…呪いなんだ。盾を盗み…竜の怒りに触れたアカネイア王への、怒りなんだ…そして、その執念はいつしか…呪いになったんだ。
リンダが自分と話す時に言っていた。

『ニーナ様はとても美しいアカネイアの王女だったわ。…私やジョルジュに優しくしてくれた。けれどね、カミュについては…口を濁らせていたの。彼については言いたくない。でも、彼にニーナ様の事は…言わないで欲しいの。私からの、お願い』

リオンは、彼女の言葉を思い返していた。だが…そのアルテミスのさだめと言うのは、闇の力を操る自分から見れば…呪いとしか思えない。
「…信じたくない。だけど…」
リオンは、本を返す為――書庫へと急ごうとし、立ち上がった。のだが、最も自分の独り言を聞かれたくない相手に、知られてしまったのだ。
「リオン皇子、エフラム王子が……」
「あ……」
黒騎士カミュ。恐らく――この話を、聞いてしまったのかもしれない。そして…自分が持っている本を、見てしまったのだろう。




最初の初めの文章の台詞。魔/装/機/神/U/「終/末/の黙/示/」より。絵本の内容鉄/血/の/オ/ル/フ/ェ/ン/ズ/より一部改変
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