所詮は出会えない人の話なのに

「な、にをって…」
レイは、バルコニーから吹く風でマントが靡いているミシェイルを見た。彼は真剣な表情だ。ミシェイルはコツコツと彼に近づいて来る。
「…貴様が、その隣に居る少女を守りたいと思っているんだろう」「……」
黙ったままのレイを見て、彼は――貴様は兄が居ると言っていたが余程大事な兄なんだろうな――と呟いた。
「俺は、父を殺したのは確かだ。父は脆弱な人間だった。アカネイアの民は奴隷出身であるマケドニアを見下していた。そんな父がアカネイアに従う姿が哀れだった…このままでは、この国の未来は無いと判断したからだ。だから――マケドニアはドルーアに忠誠を誓った」
国の未来。レイとソフィーヤは、それぞれ違う考えをしていた。
ゼフィールは憎い。けれど、国や妹の為に誤った判断をしてしまい…辛い結末を迎えた。レイの言い分と、国の未来…考えた事も無かった。けれど、結局は時が全てを滅ぼしてしまう。森羅万象の理には逆らえない。ソフィーヤの言い分は、其々未来を左右するものであった。するとミシェイルは「まだ信じられない表情をしているな」
「だが、そんな俺の愚行を止めたのはミネルバだった。死に掛けた俺は、生死の境を彷徨った。そんな俺を救ってくれたのは――マリアだった。馬鹿な妹達だ。俺の身勝手な行動であれだけ酷い目に遭ったのに…俺は、マリアに救われた。浚われた彼女を救う為に、俺はガーネフに挑み、そして――」「もう、良い。アンタの言い分は分かった」
ミシェイルの言葉を、レイは遮った。
「貴様を見るとガーネフを思い出す。あの忌々しい闇の魔法を使う、呪術師を。だが、貴様はガーネフとは違う。その少女も、呪術師であるが…貴様の闇は、誰かを守る為の闇だ…ガーネフの様に、そして俺の様に――道を踏み外すな。正しい方向に使え」
レイは手に持っている魔導書を見て、微かに震えた。ミシェイルが、どれだけ妹の為に、罪を償う為にガーネフに立ち向かったのか――分かった気がした。其れに気付いたミシェイルは、バルコニーから立ち去ろうとしていた。
「…なあ、一つ聞いて良いか?」
レイの問いに、彼は「何だ」と振り返る。

「…あの騎士と共に戦うアンタの姿は…何処か、夢見た信念を掲げているようだった。傍から見れば…敵国の将軍だとしても。ミネルバ王女やマリアから見れば、アンタは本当に、もしかして――アイオテの再来になれたんだろうか」

「…さあ、な。俺は俺だ。誰の指図も受けない…そうだ、な。あの男と俺から見れば…マルス王子は、自分達が果たせなかった信念を本当に――果たせられたのかもしれないな」

ふいに、漆黒の軍馬を駆る騎士と、赤い竜を駆る竜騎士の姿を思い浮かべる。

――夢見た信念、その信念と言うのは…もしかして。



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