純化の道を進めと
「あの呪術師の少年の様子がおかしい?」
リンは椅子で剣を磨きながら、ヘクトルの言葉を聞いた。レイと言ったか。ニノの未来の子供である彼は、どうも様子が可笑しいのだ。ヘクトルは「そうなんだがよ」とリンに問いかける。
「…ヘクトル、彼を追わない方が良いと思うの」
「でもよ、あいつは…傷ついた表情をしていたんだぞ。放っておく訳には――」
「あのね、彼は…多分、まだ幼いから過酷な戦場に身を置いていたから…親を亡くしているから、常に弟と二人っきりだったのよ。信頼していた人を殺されて…つらい思いをしていたの。彼を何とかしても…彼を理解できる心が貴方にあると思うの?」
「うっ…」
中々鋭いクリーンヒットをする。リンの言葉は御尤もすぎる。彼を慰めるのはかえって逆効果だ。ルセアやニノ、ジャファルの事を思うとつらい現状であろう。
「…私は、彼を可哀想とは思いたくないわ。ルセアやニノの事を思うと、寧ろよく頑張ったわね。と褒めたくなるの。だから、彼の意見も尊重してあげて。そうじゃないと…辛すぎるわ。レイやソフィーヤ…それに、リリーナの頑張りが無駄になってしまうのよ」
リリーナ。ヘクトルの未来の娘であろう彼女の言葉を出すとは、流石草原の民の娘であろう。ヘクトルはリンの意見に押し負け、「…分かったよ」と言った。
「じゃあ、剣の稽古を付き合って貰うわ」
「…相も変わらず、お前は本当にサカで育った通りに剣の稽古も軽々しく出来るなあ」
「ヘクトルは、斧で戦うけども…シーマやミネルバ王女と戦ったらどうかしら?彼女達は王女様だけど、見た目で判断したら痛い目に遭うわよ」
「へいへい…で、お前は誰と相手をするんだ?」
「…ゼフィールやアイラ辺りにお願いしようかしら?」
「うへえ…」
ヘクトルとリンは、お互いに会話をしながら――部屋から出て行った。どうか彼も、この世界で何かを残せますように。と願いながら。
「…なあ、俺…この世界にきて、良かったと思うか?」
レイはソフィーヤに問いかけた。ソフィーヤは「えっ?」とレイの顔を見て困惑した。アスク城のバルコニーにて、レイとソフィーヤは、星空を見ていた。ソフィーヤは夜の星空は綺麗ですね。とレイに見せるために誘ったのだが、彼の突然な問い掛けに、ソフィーヤは困った表情を見せていた。
「…ええ、と」
「…いや、お前には知らなくていい問いかけだったな。俺の母さんや父さんの姿を見て…少し、疑問に思った事があってな」
「…ニノさんや、ジャファルさんを見て…?」
「どうして…俺を残して死んでいったんだよ…と、悲しい言葉が浮かんでくるばかりで――」
「何を泣いている」
「!?」「え…」
その冷酷な声に、二人は後ろを振り返った。マケドニア王ミシェイル。竜騎士であり――父親を殺したと噂されている国王である。レイは「ソフィーヤ、下がってろ」と彼女を下がらせ、警戒した表情を浮かべていた。こいつはゼフィールと同じく、何を仕出かすのか分からない男だった。
「…そんなに警戒するな。俺は、お前と話をしに来ただけだ」
「話を、しに…?」
竜騎士の王は、夜空の星空を浮かべ――こう、口にした。
「貴様は何の為に戦っている?」